俳句百句選 

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佐々木敏光句集『富士・まぼろしの鷹』 発売中
他選 『富士・まぼろしの鷹』の句 2013.1.10
佐々木敏光・俳句個人誌『富士山麓』(月刊)

「俳句百物語」(2014.9.10.更新9.16.)
「二十世紀俳句百句選」大岡信選 (2012.11.27)
「二十世紀俳句百句選」山本健吉選 (2012.12.5)
「二十世紀俳句百句選」塚本邦雄選+プラス (2012.12.27)
  上村占魚だけ二ケ所に掲載されている。初出の「アサヒグラフ増刊号」(昭和六十年四月)で確認しようとしたが、行方不明。   また、塚本邦雄著『百句燦燦』(講談社文庫)から一部プラスし、補強。
雑誌『俳句』の「平成の名句600句」より131句 敏光選 (2014.3.27)
高柳克弘「ゼロ年代の俳句100選」と高山れおな「「ゼロ年代の俳句100選」をチューンナップする」
  から26句 (上記選の補遺でもある。) 敏光選
(2014.3.27)

和田悟朗著『俳人想望』(沖積舎、1989年)より「昭和俳句三十句撰」 (2013.10.17)
  和田悟朗著『俳人想望』(沖積舎、1989年)の「昭和俳句十句撰」、「現代俳句の珠玉」、「昭和女流十句撰」から合計三十句。
「あなたが選ぶ『戦後俳句の五句』得票上位20句」俳誌「海程」より (2014.5.31)
「俳句五十句」 上杉省和選 (2012.12.13)
  上杉省和さんは、静岡大学の元同僚で、霧ヵ城の俳号を持つ日本文学研究者、京都ノートルダム女子大学名誉教授。   参考教材としてこの「俳句五十句」を作成されました。
「現代俳句百八十句」 敏光選 (97.9.17)
 とりあえず明治直前・明治・大正生れの俳人から「一人一句」で百十六句を選んで見ました。
 常に進行途上で、揺れ動いています。
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「アンケート」好きな一句、俳人(五点) (2013.11.1.)
 アンケートを信じすぎるのは危うい。予断を生み、他の可能性を封じる場合もある。  アンケートにはアンケートの陥穽がある。また、著作権の問題もある。  そこで、掲載はそれぞれの一部だけにして、あとは各自その本を直接手にとって判断していただくことにする。
 『私の好きなこの一句』(柳川彰治編著、平凡社)
 「私の好きな俳句ベスト25」(『文藝春秋 増刊 くりま 5月号』(2010年))
 「昭和俳句の巨星 ベスト30」(『俳句界 2009年12月号』)
 『女性俳人この一句』(柳川彰治 青弓社)
 『松尾芭蕉この一句』(柳川彰治編著 平凡社、 2009)
 『与謝蕪村この一句』(柳川彰治編著 青弓社 )


 大岡信、山本健吉、塚本邦雄の百句選を『現代俳句の世界』(集英社、1998)「二十世紀名句辞典」 より引用します。初出は「アサヒグラフ 増刊号」(昭和六十年)です。著作権の問題もありますが、 俳句世界の高揚を考えてのことで、商業用には使いません。その点よろしくお願いします。「アンケー ト」関係もよろしく。

「二十世紀俳句百句選」大岡信選   『現代俳句の世界』(集英社、1998)「二十世紀名句辞典」より   松瀬青々 日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり  高浜虚子 流れ行く大根の葉の早さかな 彼一語我一語秋深みかも 去年今年貫く棒の如きもの  臼田亞浪 郭公や何処までゆかば人に逢はむ  種田山頭火 石に腰を、墓であつたか  渡辺水巴 薫風や蚕(こ)は吐く糸にまみれつつ  前田普羅 雪解川名山けづる響かな  奧白根かの世の雪をかがやかす  富安風生 みちのくの伊達の郡の春田かな よろこべばしきりに落つる木の実かな  飯田蛇笏 たましひのたとへば秋のほたる哉 くろがねの秋の風鈴鳴りにけり  をりとりてはらりとおもきすすきかな  中勘助 独り碁や笹に粉雪つもる日に  原石鼎 秋蝶の驚きやすきつばさかな 春の水岸へ岸へと夕かな  竹下しづの女 化粧(けは)ふれば女は湯ざめ知らぬなり  松村蒼石 たわたわと薄氷に乗る鴨の脚   林原耒井(らいせい) 片隅で椿が梅を感じてゐる  室生犀星 ゆきふるといひしばかりの人しづか          久保田万太郎 竹馬やいろはにほへとちりぢりに 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり  杉田久女 花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ 朝顔や濁り初めたる市の空    山口青邨 祖母山も傾山(かたむくさん)も夕立かな  水原秋桜子(1892-1981) 葛飾や桃の籬も水田べり 寒鯉を真白しと見れば鰭の藍 最上川秋風簗(やな)に吹きつどふ    高野素十(1893-1976) 蟻地獄松風を聞くばかりなり 方丈の大庇(おおびさし)より春の蝶  西島麦南 雪達磨とけゆく魂(たま)のなかりけり     後藤夜半 瀧の上に水現れて落ちにけり  川端茅舎 蛙の目越えて漣又さざなみ 朴散華即ちしれぬ行方かな  橋本多佳子 乳母車夏の怒濤によこむきに  阿波野青畝 なつかしの濁世の雨や涅槃像 畑打つや土よろこんでくだけけり  三橋鷹女 みんな夢雪割草が咲いたのね  永田耕衣 近海に鯛睦み居る涅槃像 少年や六十年後の春の如し  中村汀女 咳の子のなぞなぞあそびきりもなや 外(と)にも出よ触るるばかりに春の月  西東三鬼 水枕ガバリと寒い海がある 中年や遠くみのれる夜の桃  三好達治 水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり  日野草城 春暁や人こそ知らね木々の雨  物種をにぎれば生命(いのち)ひしめける  中村草田男 六月の氷果一盞(いつさん)の別れかな 秋の航一大紺円盤の中 萬緑の中や吾子の歯生え初むる  秋元不死男 冷されて牛の貫禄しづかなり  山口誓子 かりかりと蟷螂蜂の貌を食む 全長のさだまりて蛇すすむなり 土堤(どて)を外れ枯野の犬となりゆけり          皆吉爽雨 ゆく雁やふたたび声すはろけくも  富澤赤黄男 蝶墜ちて大音響の結氷期  芝不器男 永き日のにはとり柵を越えにけり  星野立子 しんしんと寒さがたのし歩みゆく  大野林火 月夜つづき向きあふ坂の相睦む   加藤楸邨 隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな 雉子の眸のかうかうとして売られけり  鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる   篠原鳳作 しんしんと肺碧きまで海の旅  松本たかし とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな 金粉をこぼして火蛾やすさまじき  長谷川素逝 ふりむけば障子の桟に夜の深さ   細見綾子 女身仏に春剥落のつづきをり  高屋窓秋 血を垂れて鳥の骨ゆくなかぞらに  岸風三楼 月明のいづくか悪事なしをらむ   相馬遷子 冬麗の微塵となりて去らんとす  石田波郷 吹きおこる秋風鶴をあゆましむ 力竭(つく)して山越えし夢露か霜か 雪はしづかにゆたかにはやし屍室  渡邊白泉 戦争が廊下の奥に立つてゐた  中村苑子 黄泉(よみ)に来てまだ髪梳くは寂しけれ  木下夕爾 花冷の包丁獣脂もて曇る  桂信子 ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜    ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき   野見山朱鳥 一枚の落葉となりて昏睡す  阿部青鞋(せいあい) 虹自身時間はありと思ひけり    岸田稚魚 屍の出づるとき爽やかなこゑ通る  森澄雄 除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり 秋の淡海かすみて誰にもたよりせず  金子兜太 谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな 霧の村石を投(ほう)らば父母散らん  澤木欣一 水塩の点滴天地力合せ  石原八束  鍵穴に雪のささやく子の目覚め   野澤節子 せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ   草間時彦 足もとはもうまつくらや秋の暮   飯田龍太 一月の川一月の谷の中  貝こきと噛めば朧の安房の国  三橋敏雄 昭和衰へ馬の音する夕かな    高柳重信 軍鼓鳴り           荒涼と 秋の 痣となる   赤尾兜子 音楽漂う岸侵しゆく蛇の飢                          藤田湘子 うすらひは深山へかへる花の如  宇佐美魚目 東大寺湯屋の空ゆく落花かな  加藤郁乎 雨季来たりなむ斧一振りの再会  河原枇杷男 ある闇は蟲の形をして哭けり  鷹羽狩行 天瓜粉しんじつ吾子は無一物
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「二十世紀俳句百句選」山本健吉選  『現代俳句の世界』(集英社、1998)「二十世紀名句辞典」より  去年今年貫く棒の如きもの          高浜虚子 日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり        松瀬青々 五月雨や棹もて鯰うつといふ         泉鏡花 物干に富士やをがまむ北斎忌         永井荷風 水洟や鼻の先だけ暮れ残る          芥川龍之介 鷹のつらきびしく老いて哀れなり       村上鬼城 雪散るや千曲の川音(かわと)立ち来り    臼田亞浪 ひとすぢの秋風なりし蚊遣香         渡辺水巴 をりとりてはらりとおもきすすきかな     飯田蛇笏 秋蝶の驚きやすきつばさかな         原石鼎 鳥とぶや深雪がかくす飛騨の国        前田普羅 (健吉は「鳥落ちず」を採用) 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり      久保田万太郎 慈姑(くわゐ)の子の藍いろあたま哀しも   室生犀星 ほうたるほうたるなんでもないよ       種田山頭火 生涯の影ある秋の大地かな          長谷川かな女 めまぐるしきこそ初蝶といふべしや      阿部みどり女 谺して山ほととぎすほしいまま        杉田久女 化粧(けは)ふれば女は湯ざめ知らぬなり   竹下しづの女 妻よ子よ春日の杜(もり)の冬日和      瀧井耕作 手鏡にあふれんばかり夏のひげ        日野草城 冬菊のまとふはおのがひかりのみ       水原秋桜子   葛城の山懐に寝釈迦かな           阿波野青畝 つきぬけて天上の紺曼珠沙華         山口誓子 方丈の大庇(おおひさし)より春の蝶     高野素十 こときれてなほ邯鄲のうすみどり       富安風生 祖母山も傾山(かたむくさん)も夕立かな   山口青邨 蟻台上に飢ゑて月高し            横光利一 櫻の樹の下には屍体が埋まつてゐる      梶井基次郎 落葉やんで鶏の眼に海うつるらし       三好達治 てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた    安西冬衛 渡し場に/しやがむ女の/淋しさ       西脇順三郎     花杏(あんず)受胎告知の翅音びび      川端茅舎 枯菊と言捨てんには情あり          松本たかし あなたなる夜雨の葛のあなたかな       芝不器男 瀧の上に水現れて落ちにけり         後藤夜半 雪達磨とけゆく魂(たま)のなかりけり    西島麦南 牡丹打つ雨の力を見てゐたり         高濱年尾 あはれ子の夜寒の床の引けばよる       中村汀女 美しき帰雁の空も束の間に          星野立子 真直ぐ往けと白痴が指しぬ秋の道       中村草田男    淡墨桜風たてば白湧きいづる         大野林火 こまごまと木犀散らす金十字         永井龍男 今朝は初雪ああ誰もゐないのだ        太宰治 春来る童子の群れて来る如く         相生垣瓜人 蓮の実の飛ぶ静かなる思惟を見し       中島月笠 いちまいの朴の落葉のありしあと       長谷川素逝 にぎりしめにぎりしめし掌に何もなき     篠原鳳作 頭(づ)の中で白い夏野となつてゐる     高屋窓秋 爛々と虎の眼に降る落葉           富澤赤黄男 力竭(つく)して山越えし夢露か霜か     石田波郷 日本語をはなれし蝶のハヒフヘホ       加藤楸邨 葉桜の中の無数の空さわぐ          篠原梵 吸殻を炎天の影の手が拾ふ          秋元不死男 座る余地まだ涅槃図の中にあり        平畑静塔   大旱の赤牛となり声となる          西東三鬼   桐一葉落ちて心に横たはる          渡邊白泉   十方にこがらし女身錐揉みに         三橋鷹女 きしきしと帯を纏(ま)きをり枯るる中    橋本多佳子 月あらば満目秋草の野なるべし        福田蓼汀 鶏頭を抜き捨てしより秋の暮         安住敦 夢の世に葱を作りて寂しさよ         永田耕衣 死にたれば人来て大根煮きはじむ       下村槐太   春の雪青菜をゆでてゐたる間も        細見綾子 水入れて壺に音する秋の暮          細見綾子 春落葉いづれは帰る天の奧          野見山朱鳥 燃ゆべきは燃え果てにけり地に秋風      下村ひろし 裏がへる亀思ふべし鳴けるなり        石川桂郎 蚊や蚤や人はすなはちはりねづみ       阿部宵人 寒鯔を釣る夢もちて人の中          橋關ホ(かんせき、かんは間の旧字) 紅葉の色きはまりて風を絶つ         中川宋淵 眼路(めじ)といふものの末なる秋の暮    斎藤玄 そよぎあふ草の秀たのし秋の雲        木下夕爾 ぬばたまの黒飴さはに良寛忌         能村登四郎 鈴に入る玉こそよけれ春のくれ        三橋敏雄 木曽のなあ木曽の炭馬並び糞(ま)る     金子兜太 身をそらす虹の/絶巓/処刑台        高柳重信 紫雲英燃ゆ子捨川とて村外れ         澤木欣一 春曙何すべくして目覚めけむ         野澤節子 月の人のひとりとならむ車椅子        角川源義 すぐ覚めし昼寝の夢に鯉の髭         森澄雄  いきいきと三月生る雲の奧          飯田龍太 看取り寒し笑ひは胸にきてとまる       石原八束 大雷雨鬱王と会うあさの夢          赤尾兜子 貌が棲む芒の中の捨て鏡           中村苑子 朽(くだ)ら野や妙竹林話水手書       加藤郁乎 遊び子のこゑは漣はるのくれ         林翔 わが山河いまひたすらに枯れゆくか      相馬遷子 筍や雨粒ひとつふたつ百           藤田湘子 病む母のひらがなことば露の音        成田千空 冬の夜や金柑を煮る白砂糖          草間時彦 虹なにかしきりにこぼす海の上        鷹羽守行 春の野に出でて摘むてふ言葉あり       後藤比奈夫 新巻の塩のこぼれし賑わひや         角川照子   日当れば湧きて浮寝の鳥の数         鷲谷七菜子 枯野ゆく葬(はふ)りの使者は二人連れ    福田甲子雄 桜咲く磯長(しなが)の国の浅き闇      原裕 夜の眼のしばたたくゆゑ小雪くる       川崎展宏 落椿とはとつぜんに華やげる         稲畑汀子 いにしへの花の奈落の中に座す        角川春樹
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「二十世紀俳句百句選」塚本邦雄選+プラス   『現代俳句の世界』(集英社、1998)「二十世紀名句辞典」より。また『百句燦燦』(講談社文庫)から一部の句を補強。  白露に薄薔薇色の土龍(もぐら)の掌    川端茅舎 金魚大鱗夕焼の空の如きあり        松本たかし かたまつて薄き光の菫かな         渡辺水巴 曼珠沙華描かばや金泥もて繊く       長谷川素逝 新秋や女体かがやき夢了る         金子兜太 鶴の本読むヒマラヤ杉にシャツを干し    (『百句燦燦』より)  朝顔が降る遠国の無人の街          蛇の衣水美しく流れとよ          下村槐太 死にたれば人来て大根煮きはじむ      (『百句燦燦』より) 吾妻かの三日月ほどの吾子胎(やど)すか  中村草田男 むらさきになりゆく墓に詣るのみ      (『百句燦燦』より) 昼寝の後の不思議の刻神父を訪ふ       父となりしか蜥蜴とともに立ち止る      露霜の紅さして母遺りけり         岸田稚魚 赤き火事哄笑せしが今日黒し        西東三鬼 緑陰に三人の老婆わらへりき        (『百句燦燦』より) みどり子の頬突く五月の波止場にて      赤き火事哄笑せしが今日黒し         緑陰をよろこびの影すぎしのみ       飯田龍太 紺絣春月重く出でしかな          (『百句燦燦』より) むらさきの褪せしがごとく昼寝ざめ     加倉井秋を 或る晴れた日の繭市場憶ひ出す       (『百句燦燦』より) ゆつくりと光が通る牡丹の芽        能村登四郎 青蚊帳に寝返りて血を傾かす        (『百句燦燦』より) 「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク   川崎展宏 雄蕊相逢ふいましスパルタのばら      加藤郁乎 あヽ 亜麻色の初花のともぐひ       (『百句燦燦』より) 瞳に古典紺々とふる牡丹雪         富澤赤黄男 蝶墜ちて大音響の結氷期          (『百句燦燦』より)         雪渓に山鳥花の如く死す          野見山朱鳥 夜の芍薬男ばかりが衰えて         鈴木六林男 天上も淋しからんに燕子花         (『百句燦燦』より)         咲き満ちて風にさくらのこゑきこゆ     森澄雄 山の冷猟男(さつを)の体同じ湯に     (『百句燦燦』より) 貞操や柱にかくれかがやけり        神生彩史 抽斗の国旗しづかにはためける       (『百句燦燦』より) 級長のまんと紅梅にひつかかる       阿部完市 銃後といふ不思議な町を丘で見た      渡邊白泉 美しき黴や月さしゐたりけり        加藤楸邨 雉子の眸のかうかうとして売られけり    (『百句燦燦』より) かなしめば鵙金色の日を負ひ来        枯を行く覆面の馬美貌なり         山口誓子 夏雲の牡子時(をさかりとき)なるを見て泪(なみだ)す (『百句燦燦』より)  パンツ脱ぐ遠き少年泳ぐのか         虹消えゆくふかきこころをつくすとも    佐野まもる 隙間風薔薇色をこそ帯ぶべけれ       相生垣瓜人 母を捨て犢鼻褌(たふさぎ)つよくやはらかき 三橋敏雄 ひとの恋あはれにをはる卯浪かな      安住敦 門口を山水走る菖蒲かな          富安風生 袈裟がけに雪の刀痕葉月富士        (『百句燦燦』より) 十六夜(いざよひ)のきのふともなく照しけり 阿波野青畝 水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首          (『百句燦燦』より) 串の鮠(はや)枯るる光の十三夜      大谷碧雲居 黒帯の柔道に惚れ二月尽く         島津亮 父酔ひて葬儀の花と共に倒る        (『百句燦燦』より) 怒らぬから青野でしめる友の首        芝焼いて曇日(どんじつ)紅き火に仕ふ   野澤節子 セレベスに女捨てきし畳かな        火渡周平 水泡(みなわ)より美しき旅了りけり    (『百句燦燦』より) 星金銀蝶多かりし日の空に         馬場駿吉 昼顔や死は目をあける風の中        河原枇杷男    電柱の電線あはれ曼珠沙華         八木林之助 子のうたを父が濁しぬ冬霞         原裕 草中に裂帛の百合子のめざめ        友岡子郷 母訪ふや上を袖行く枯葎          永田耕衣 朝顔や百たび訪はば母死なむ        (『百句燦燦』より) 男老いて男を愛す葛の花           ねむりても旅の花火の胸にひらく      大野林火 石の声みずの声して山ざくら        久保田月鈴子 鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ       林田紀音夫 水よりも淡きゆふべよ夏桔梗        上村占魚 流燈や一つにはかにさかのぼる       飯田蛇笏 寒を盈(み)つ月金剛のみどりかな     (『百句燦燦』より) しろがねのやがてむらさき春の暮      草間時彦 兜虫汨羅(べきら)のほとりにて消ゆる   堀井春一郎 氷上を遊女のあゆむ二日かな        秋元不死男 子を殴(う)ちしながき一瞬天の蝉     (『百句燦燦』より)  まぼろしのあをあをと鯊(はぜ)死にゆけり  枯山に鳥突きあたる夢の後         藤田湘子 音楽を降らしめよ夥(おびただ)しき蝶に  (『百句燦燦』より) 髪刈つて晩夏さとき身黄昏へ         くれなゐの色を見てゐる寒さかな      細見綾子 黄道を先行くこころ鷦鷯(みそさざい)   和田五朗 ころもがへしほのごときかなしみに     本郷昭雄 かなしみさだか濃紅葉に墨滲むごと     (『百句燦燦』より) 白粥の日数のなかの寒ざくら        鷲谷七菜子 蜀葵(からあおい)母があの世へ懸けしもの 宮入聖 うるはしき入水図あり月照忌        篠原鳳作 洗ひ髪身におぼえなき光ばかり       八田木枯 芥子咲かせをりほのぼのと老兆す      松村蒼石 唐辛子暗き色もて争へり          (『百句燦燦』より) 男らや真冬の琴をかき鳴らし        飯島晴子 さるすべりしろばなちらす夢違い      (『百句燦燦』より) 絢爛の重みをつねに雉子翔べり       三浦秋葉 縄とびの寒暮傷みし馬車通る        佐藤鬼房 ひばり野に父なる額うちわられ       (『百句燦燦』より) 青あらし神童のその後は知らず       大串章 北風や涙がつくる燭の虹          高柳重信 まなこ荒れ                (『百句燦燦』より)                  たちまち 朝の 終りかな 月下の宿帳                 先客の名は リラダン伯爵 雲雀落ち天に金粉残りけり         平井照敏 男湯に噴水があり男の子欲し        堀内薫 高熱の鶴青空に漂へり           日野草城  眦(まなじり)に金ひとすぢや春の鵙    橋本鶏二    瞑(めつむ)れば紅梅墨を滴らす      角川春樹 まうへ舞ふ蝶のまうへは唯紺青       川島彷徨子 すぐ氷る木賊(とくさ)の前のうすき水   宇佐美魚目 一日の奧に日の差す黒揚羽         桂信子 大き掌に枯野来し手をつつまるる      (『百句燦燦』より) 空蝉のからくれないに砕けたり       橋關ホ(かんせき、かんは間の旧字) 憶良らの近江は山かせりなずな       しょうり大 目つむりていても吾(あ)を統(す)ぶ五月の鷹 寺山修司 父を嗅ぐ書斎に犀を幻想し         (『百句燦燦』より) 奧白根かの世の雪をかがやかす       前田普羅 すみれ束解くや光陰こぼれ落つ       鍵和田子 八十八夜の山より椿かつぎ出す       青柳志解樹 萬緑や死は一弾を以て足る         上田五千石 繭の中もつめたき秋の夜もあらむ      木下夕爾 天を発つはじめの雪の群必死        大原テルカズ 模糊として男旅する薄氷          長谷川久々子 百日紅真昼の砂の臈(ろう)たけて     加藤かけい まなぶたの一重と二重若菜籠        磯貝碧蹄館 百日紅真昼の砂の臈(ろう)たけて     加藤かけい あひびきやわれら子規忌を修しゐる     (『百句燦燦』より) 枯野ゆく鳴りを鎮めし楽器箱        平畑静塔 うす繭の中ささやきを返しくる       (『百句燦燦』より)                 宝石にまぎれ何時より花の種        有馬朗人 てのひらにくれなゐの塵実朝忌       永島靖子 春寒や錆のもどりし銀蒔絵         上村占魚 白木連(はくれん)の天のきぬずれ聴えけり 千代田葛彦 雷夜読む洋書大きな花文字より       田川飛旅子 市子らに月の朧と日の爛(ただ)れ     岩村蓬 麦秋の人去るに足る光かな         飴山實 釘箱から夕がほの種出してくる       飴山實 今生のこれも夢なる百合の風        石塚友二 長き夜の楽器かたまりゐて鳴らず      伊丹三樹彦 夜の洋傘女入れたる行方かな        (『百句燦燦』より) 凍蝶の金箔褪せし日の光          加藤三七子 勿忘草わかものの墓標ばかり        石田波郷 蝶死にて流るる水も今も踰ゆ        (『百句燦燦』より) 金雀枝(えにしだ)や基督に抱かると思へ   畦を違へて虹の根に行けざりし       鷹羽狩行 みちのくの星入り氷柱われに呉れよ     (『百句燦燦』より) 仏足に一本の曼珠沙華を横たふ       橋本多佳子 罌粟ひらく髪の先まで寂しきとき      (『百句燦燦』より) 螢籠昏ければ揺り炎えたたす         冬菊のまとふはおのがひかりのみ      水原秋桜子 薄紅葉恋人ならば烏帽子で来        三橋鷹女 囀や海の平らを死者歩く          (『百句燦燦』より) 爛々と昼の星見え菌(きのこ)生え     高濱虚子  *** プラス十句(『百句燦燦』より) *** 例ふれば恥の赤色雛の段          八木三日女 音楽漂う岸侵しゆく蛇の飢         赤尾兜子 暗がりに檸檬浮かぶは死後の景       三谷昭 ほととぎす迷宮の扉(と)の開けつぱなし  塚本邦雄 秋風や模様のちがふ皿二つ         原石鼎 鬼百合がしんしんとゆく明日の空      坪内稔典 向日葵の蕊を見るとき海消えし       芝不器男 冬の馬美貌くまなく睡りをり        石川雷児
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雑誌『俳句』の「平成の名句600句」より131句  『俳句』(角川、2012.7)より  白梅や天没地没虚空没        永田耕衣 枯草や住居無くんば命熱し 踏切のスベリヒユまで歩かれへん 地の底の燃ゆるを思へ去年今年    桂信子 忘年や身ほとりのものすべて塵 たてよこに富士伸びてゐる夏野かな 青空や花は咲くことのみ思ひ 雪たのしわれにたてがみあればなほ 再びは生れ来ぬ世か冬銀河      細見綾子 百千鳥雄蘂雌蘂を囃すなり      飯田龍太 またもとのおのれにもどり夕焼中 涼風の一塊として男来る       石段のはじめは地べた秋祭      三橋敏雄 当日集合全国戦没者之生霊 山に金太郎野に金次郎予は昼寝 夜寒さの松江は橋の美しき      森澄雄 妻がゐて夜長を言へりさう思ふ よく眠る夢の枯野が青むまで     金子兜太 おおかみに螢が一つ付いていた 言霊の脊梁山脈のさくら 牡蠣食べてわが世の残り時間かな   草間時彦   無方無時無距離砂漠の夜が明けて   津田清子 生前も死後も泉に水飲みに      中村苑子 非常口に緑の男いつも逃げ      田川飛旅子 霜履きし箒しばらくして倒る     能村登四郎 天山の夕空を見ず鷹老いぬ      藤田湘子 あめんぼと雨とあめんぼと雨 滅びても光年を燃ゆ春の星 やませ来るいたちのやうにしなやかに 佐藤鬼房 またの世は旅の花火師命懸 残る虫暗闇を食ひちぎりゐる 銀河系のとある酒場のヒヤシンス   橋關ホ(かんせき、かんは間の旧字) 西日さしそこ動かせぬものばかり   波多野爽波 チューリツプ花びら外れかけてをり 花冷のちがふ乳房に逢ひにゆく    眞鍋呉夫 初夢のなかをどんなに走つたやら   飯島晴子 さつきから夕立の端にゐるらしき 葛の花来るなと言つたではないか 寒晴やあはれ舞妓の背の高き 白髪の乾く早さよ小鳥来る 十薬の蕊高くわが荒野なり 綿虫にあるかもしれぬ心かな     川崎展宏 炎天へ打つて出るべく茶漬飯 初夢のいきなり太き蝶の腹      宇佐美魚目  虫の夜の星空に浮く地球かな     大峯あきら 日輪の燃ゆる音ある蕨かな 一瀑のしづかに懸り山始 一枚の障子明りに技芸天       稲畑汀子 一山の花の散り込む谷と聞く 倒・裂・破・崩・礫の街寒雀 (阪神大震災)友岡子郷 はらわたの熱きを恃(たの)み鳥渡る 宮坂静生 戦争がはじまる野菊たちの前     矢島渚男 船のやうに年逝く人をこぼしつつ 遠くまで行く秋風とすこし行く 寒暁や神の一撃もて明くる(神戸地震)和田悟朗 人間であること久し月見草  初電話かけてもみたし仏達      星野椿 海鼠切りもとの形に寄せてある    小原啄葉  蝶われをばけものと見て過ぎゆけり  宗田安正 ひかり降るごとく雨来て山桜     茨木和生   口あけて全国の河馬桜咲く      坪内稔典 たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ 淡海といふ大いなる雪間あり     長谷川櫂 蝉時雨もはや戦前かも知れぬ     攝津幸彦 国家よりワタクシ大事さくらんぼ あらそはぬ種族ほろびぬ大枯野    田中裕明 空へゆく階段のなし稲の花 神護景雲元年写経生昼寝       小澤實 是々非々もなき氷旗かかげある 貧乏に匂ひありけり立葵 人が人を愛したりして青菜に虫    池田澄子 人類の旬の土偶のおっぱいよ 茄子焼いて冷やしてたましいの話 前ヘススメ前ヘススミテ還ラザル まだもののかたちに雪の積もりをり  片山由美子 ひそかなるものに花野と信仰と    岩岡中正 車にも仰臥という死春の月      高野ムツオ 鬼哭とは人が泣くこと夜の梅 奥歯あり喉あり冬の陸奥の闇  青空の暗きところが雲雀の血   泥かぶるたびに角組み光る蘆 健啖のせつなき子規の忌なりけり   岸本尚毅 また一つ風の中より除夜の鐘 手をつけて海のつめたき桜かな 墓石に映つてゐるは夏蜜柑 飛込の途中たましひ遅れけり     中原道夫 にはとりの血は虎杖に飛びしまま 狼は亡び木霊は存ふる        三村純也 生涯のいま午後何時鰯雲       行方克巳 かたまりて吹雪の中をゆく吹雪    辻桃子 わが思ふ限り夫在り魂祭       西村和子 水の地球すこしはなれて春の月    正木ゆう子 地下鉄にかすかな峠ありて夏至 やがてわが真中を通る雪解川 しづかなる水は沈みて夏の暮 いま遠き星の爆発しづり雪 地下街の列柱五月来たりけり     奧坂まや みんなみは歌湧くところ燕 坂道の上はかげろふみんな居る 握りつぶすならその蝉殻を下さい   大木あまり 来ることの嬉しき燕きたりけり    石田郷子 火事かしらあそこも地獄なのかしら  櫂未知子 春は曙そろそろ帰つてくれないか 佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり 一瞬にしてみな遺品雲の峰 いきいきと死んでゐるなり水中花 もりソバのおつゆが足りぬ高濱家   筑紫磐井 来たことも見たこともなき宇都宮 加速するものものこそ光れ初御空   五島高資 泥に降る雪美しや泥になる      小川軽舟 肘あげて能面つけぬ秋の風 死ぬときは箸置くやうに草の花 福助のお辞儀は永遠に雪がふる    鳥居真里子 ことごとく未踏なりけり冬の星    高柳克弘 麿、変?              高山れおな  秋風が芯まで染みた帰ろうか     田島風亜 寂しいと言い私を蔦にせよ      神野紗希 投げ出して足遠くある暮春かな    村上鞆彦 九官鳥同士は無口うららけし     望月周 心臓はひかりを知らず雪解川     山口優夢    あぢさゐはすべて残像ではないか   人類に空爆のある雑煮かな      関悦史 水温む鯨が海を選んだ日       土肥あき子 気絶して千年氷る鯨かな       冨田拓也 春の海光のたまる音響く       西村我尼吾  Aランチアイスコーヒー付けますか  稲畑廣太郎 ポストまで歩けば二分走れば春    鎌倉佐弓 三・一一神はゐないかとても小さい  照井翠 双子なら同じ死顔桃の花 海に出てしばらく浮かぶ春の川    大屋達治 見えさうな金木犀の香なりけり    津川絵里子
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高柳克弘「ゼロ年代の俳句100選」と高山れおな、前者を「チューンナップする」から26句 -----「上記「平成の名句600句」より110句」の補遺でもある 敏光選 「現代詩手帖」2010年6月号、高柳克弘「ゼロ年代の俳句100選」 及び「俳句空間 豈weekly」2010年6月6日、高山れおな「「ゼロ年代の俳句100選」をチューンナップする」から 目覚めるといつも私が居て遺憾    池田澄子 雪まみれにもなる笑つてくれるなら  櫂未知子 牛乳飲む片手は腰に日本人      山本紫黄 その奥に鯨の心臓春の闇       高野ムツオ 死ぬ朝は野にあかがねの鐘鳴らむ   藤田湘子 伊予にゐてがばと起きたる虚子忌かな 初山河一句を以つて打ち開く     長谷川櫂  年寄は風邪引き易し引けば死す    草間時彦 歳月や地獄も霞む硫黄島       川崎展宏 こののちは秋風となり阿修羅吹かむ  大石悦子 酔ひし父引きずる運動会前夜     今井聖 ことごとくやさしくなりて枯れにけり 石田郷子 満月や大人になってもついてくる   辻征夫 櫻見にひるから走る夜汽車かな    八田木枯 玉葱を切っても切っても青い鳥    小野裕三 亡き人の香水使ふたびに減る     岩田由美 どの道も家路とおもふげんげかな   田中裕明 ゆるむことなき秋晴の一日かな    深見けん二 毛布からのぞくと雨の日曜日     加藤かな文 全人類を罵倒し赤き毛皮行く     柴田千晶 枯蟷螂人間をなつかしく見る     村上鞆彦  天空は生者に深し青鷹(もろがえり) 宇多喜代子  みづうみのみなとのなつのみじかけれ 田中裕明  万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり   奥坂まや 一滴の我一瀑を落ちにけり      相子智恵
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和田悟朗著『俳人想望』(沖積舎、1989年)より「昭和俳句三十句撰」  夏草に気罐車の車輪来て止る        山口誓子  水枕ガバリと寒い海がある         西東三鬼  かぎりなく樹は倒るれど日はひとつ     渡辺白泉  椿散るああなまぬるき昼の火事       富澤赤黄男  遺品あり岩波文庫「阿部一族」       鈴木六林男  軍鼓鳴り                 高柳重信  荒涼と  秋の  痣となる  新しき蛾を溺れしむ水の愛         永田耕衣  白い人影はるばる田をゆく消えぬために   金子兜太  音楽漂う岸侵しゆく蛇の飢         赤尾兜子  鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ       林田紀音夫  頭の中で白い夏野となつてゐる       高屋窓秋  爛々と虎の眼に降る落葉          富澤赤黄男  暗闇の眼玉濡らさず泳ぐなり        鈴木六林男  夏蜜柑いづこも遠く思はるる        永田耕衣  杭のごとく                高柳重信  墓  たちならび  打ちこまれ  硝子器の白魚水は過ぎゆけり        赤尾兜子  昭和衰へ馬の音する夕かな         三橋敏雄  菜食の父に聞えて霧走る          佐藤鬼房  枯葎昏れて繃帯巻き直す          橋石   凧(いかのぼり)なにもて死なむあがるべし 中村苑子  白露や死んでゆく日も帯締めて       三橋鷹女  一切があるなり霧に距てられ        津田清子  赤い地図なお鮮血の絹を裂く        八木三日女  牡丹散るはるかより闇来つつあり      鷲谷七菜子  日の鷹がとぶ骨片となるまで飛ぶ      寺田京子  流木を渉るものみな燭を持ち        中村苑子  女身仏に春剥落のつづきをり        細見綾子  雷火立ち閾しきゐ(しきゐ)をわたる鉋屑  桂信子  うたたねの泪大事に茄子の花        飯島晴子  冬最上あらあらしくも岐れずに       澁谷道
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「あなたが選ぶ『戦後俳句の五句』得票上位20句」俳誌「海程」より 1  彎曲し火傷し爆心地のマラソン   金子兜太 2  鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ   林田紀音夫 3  戦後の空へ青蔦死木の丈に充つ   原子公平 4  梅咲いて庭中に青鮫が来ている   金子兜太 5  広島や卵食ふ時口ひらく      西東三鬼 5  少年来る無心に充分に刺すために  阿部完市 5  暗闇の目玉濡らさず泳ぐなり    鈴木六林男 8  人体冷えて東北白い花盛り     金子兜太 9  銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく 金子兜太 9  怒らぬから青野でしめる友の首   島津亮 11 栃木にいろいろ雨のたましもいたり 阿部完市 11 ロシア映画みてきて冬のにんじん太し 古沢太穂 11 ぶつかる黒を押し分け押し来るあらゆる黒 堀葦男 14 切株があり愚直の斧があり     佐藤鬼房 14 朝はじまる海へ突っ込む鷗の死   金子兜太 14 遺品あり岩波文庫「阿部一族」   鈴木六林男 17 いつせいに柱の燃ゆる都かな    三橋敏雄 18 蝶墜ちて大音響の結氷期      富澤赤黄男 19 陰に生る麦尊けれ青山河      佐藤鬼房 19 一月の川一月の谷の中       飯田龍太
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「俳句五十句」 上杉省和選 鶏頭の十四五本もありぬべし        正岡子規 糸瓜咲て痰のつまりし仏かな        正岡子規 金亀子(こがねむし)擲(なげう)つ闇の深さかな 高濱虚子 凍蝶の己が魂追うて飛ぶ   高濱虚子 をりとりてはらりとおもきすすきかな    飯田蛇笏 冬蜂の死に所なく歩きけり         村上鬼城 秋風や屠(ほふ)られに行く牛の尻     夏目漱石 木がらしや目刺にのこる海の色       芥川龍之介 わが胸にすむ人ひとり冬の梅        久保田万太郎 学問のさびしさに堪へ炭をつぐ       山口誓子 蟻よバラを登りつめても陽が遠い      篠原鳳作 ちるさくら海あをければ海へちる      高屋窓秋 命継ぐ深息しては去年今年         石田波郷 寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃      加藤楸邨 雪はげし抱かれて息のつまりしこと     橋本多佳子 足袋つぐやノラともならず教師妻      杉田久女 虹消えてしまえば還る人妻に        三橋鷹女 大根を煮た夕飯の子供達の中にをる     河東碧梧桐 無産階級の山茶花べたべたに咲くに任す   中塚一碧樓 凧の一念空あるゆえに空へゆく       荻原井泉水 けふもいちにち誰も来なかつたほうたる   山頭火 せきをしてもひとり            尾崎放哉 ゆく船へ蟹はかひなき手をあぐる      富澤赤黄男 「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信 憲兵の前で滑つて転んぢやつた       渡邊白泉 広島や卵食ふ時口ひらく          西東三鬼 おそるべき君等の乳房夏来(きた)る    西東三鬼 原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ    金子兜太 子を殴(う)ちしながき一瞬天の蝉     秋元不死男   春ひとり槍投げて槍に歩み寄る       能村登四郎 野に住めば流人のおもひ初つばめ      飯田龍太 湯の少女臍すこやかに山ざくら       飯田龍太 妻がゐて子がゐて孤独いわし雲       安住敦 除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり       森澄雄 萬緑や死は一弾を以て足る         上田五千石 くさぐさの呼び交わしつつ枯れてゆく    相生垣瓜人 とほのくは愛のみならず夕螢        鈴木真砂女 愛されずして沖遠く泳ぐなり        藤田湘子 嫁ぐとは親捨つことか雁渡る        中村汀女 ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき     桂信子 新宿ははるかなる墓碑鳥渡る        福永耕二 降る雪を仰げば昇天する如し        夏石番矢   花吹雪観る土中の父も身を起こし      西川徹郎 背泳ぎにしんとながるる鷹一つ       矢島渚男 三月の甘納豆のうふふふふ         坪内稔典 君はいま大粒の雹、君を抱く        坪内稔典 帰るのはそこ晩秋の大きな木        坪内稔典 自転車に春の空気を入れてみる       佐々木敏光 初夏やひらきかげんの母の膝        松葉久美子 ふはふはのふくろうの子のふかれをり    小澤實
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「現代俳句百八十句」敏光選 (目下、明治期・大正生れの俳人から「一人一句」で百十六句) 夏嵐机上の白紙飛び尽す            正岡子規 初冬の竹緑なり詩仙堂             内藤鳴雪 秋風や屠(ほふ)られに行く牛の尻       夏目漱石 初秋の蝗つかめば柔らかき           芥川龍之介 日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり         松瀬青々 去年今年貫く棒の如きもの           高浜虚子 赤い椿白い椿と落ちにけり           河東碧梧桐 郭公や何処までゆかば人に逢はむ        臼田亞浪 冬蜂の死に所なく歩きけり           村上鬼城 黛(まゆずみ)を濃うせよ草は芳しき      松根東洋城 白日は我が霊なりし落葉かな          渡辺水巴 大いなる春日の翼垂れてあり          鈴木花蓑 をりとりてはらりとおもきすすきかな      飯田蛇笏 奧白根かの世の雪をかがやかす         前田普羅 秋風や模様のちがふ皿二つ           原石鼎 たわたわと薄氷に乗る鴨の脚          松村蒼石 片隅で椿が梅を感じてゐる           林原耒井 (らいせい) 啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々         水原秋桜子 くもの糸一すぢよぎる百合の前         高野素十 水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首            阿波野青畝 夏の河赤き鉄鎖のはし浸る           山口誓子 空をあゆむ朗朗と月ひとり           荻原井泉水(はうぼう)一匹の顔と向きあひてまとも  中塚一碧樓 分け入つても分け入つても青い山        種田山頭火 底がぬけた柄杓で水を呑まうとした       尾崎放哉 陽(ひ)へ病む                大橋裸木 シヤツ雑草にぶつかけておく          栗林一石路  鎌倉右大臣実朝の忌なりけり          尾崎迷堂 羽子板の重きが嬉し突かで立つ         長谷川かな女 短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてつちまをか)竹下しづの女 青梅の臀うつくしくそろひけり         室生犀星 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり       久保田万太郎  まさをなる空よりしだれざくらかな       富安風生 大原の小学校も冬休              池内たけし 人それぞれ書を読んでゐる良夜かな       山口青邨 我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮          富田木歩 高熱の鶴青空に漂へり             日野草城    花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ         杉田久女 家にゐても見ゆる冬田を見に出づる       相生垣瓜人 (はまなす)や今も沖には未来あり     中村草田男 鰯雲人に告ぐべきことならず          加藤楸邨 外にも出よ触るるばかりに春の月        中村汀女 しんしんと寒さがたのし歩みゆく        星野立子 金剛の露ひとつぶや石の上           川端茅舎 十棹とはあらぬ渡しや水の秋          松本たかし さわやかにおのが濁りをぬけし鯉        皆吉爽雨 瀧の上に水現れて落ちにけり          後藤夜半 永き日のにはとり柵を越えにけり        芝不器男 しんしんと肺碧きまで海の旅          篠原鳳作 蝶墜ちて大音響の結氷期            富澤赤黄男 ちるさくら海あをければ海へちる        高屋窓秋 薄紅葉恋人ならば烏帽子で来          三橋鷹女 おそるべき君等の乳房夏来る          西東三鬼 ねむりても旅の花火の胸にひらく        大野林火 乳母車夏の怒濤によこむきに          橋本多佳子 ラガー達のそのかちうたのみぢかけれ      横山白虹 地の涯に倖せありと来しが雪          細谷源二 遠き家の氷柱落ちたる光かな          高浜年尾 さよならと梅雨の車窓に指で書く        長谷川素逝 月明のいづくか悪事なしをらむ         岸風三楼 鷹の巣や太虚に澄める日一つ          橋本鶏二 羅(うすもの)や人悲します恋をして      鈴木真砂女 朝焼の雲海尾根を溢れ落つ           石橋辰之助 天心にして脇見せり春の雁           永田耕衣 子を殴(う)ちしながき一瞬天の蝉       秋元不死男 たましいの暗がり峠雪ならん           我を遂に癩の踊の輪に投ず           平畑静塔 百方に借あるごとし秋の暮           石塚友二 女身仏に春剥落のつづきをり          細見綾子 ひとの恋あはれにをわる卯浪かな        安住敦 わが山河まだ見尽さず花辛夷          相馬遷子 遠蛙酒の器の水を呑む             石川桂郎 葉桜の中の無数の空さわぐ           篠原梵 死にたれば人来て大根煮きはじむ        下村槐太 暗がりに檸檬泛かぶは死後の景         三谷昭 春ひとり槍投げて槍に歩み寄る         能村登四郎 ほしいまま旅したまひき西行忌         石田波郷 戦争が廊下の奥に立つてゐた          渡辺白泉 桃の木や童子童女が鈴なりに          中村苑子 家々や菜の花いろの燈をともし         木下夕爾 ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき       桂信子 けふの日の終る影曳き糸すすき         野見山朱鳥 花あれば西行の日とおもふべし         角川源義 明日死ぬ妻が明日の炎天嘆くなり        斎藤玄 ひとりづつ死し二体づつ橇にて運ぶ       松崎鉄之介 除夜の湯に肌触れ合へり生くるべし       村越化石 あせるまじ冬木を切れば芯の紅         香西照雄 戦後の空へ青蔦死木(しぼく)の丈に充つ    原子公平 セレベスに女捨てきし畳かな          火渡周平 鬼灯市夕風のたつところかな          岸田稚魚 打水の流るる先の生きてをり          上野泰 サングラス掛けて妻にも行くところ       後藤比奈夫 さやけくて妻とも知らずすれちがふ       西垣脩 怒らぬから青野でしめる友の首         島津亮 ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに       森澄雄 やませ来るいたちのやうにしなやかに      佐藤鬼房 霧の村石を投(ほう)らば父母散らん      金子兜太 天上も淋しからんに燕子花           鈴木六林男 白桃に奈良の闇より薮蚊来る          沢木欣一 死は春の空の渚に遊ぶべし           石原八束 天地の息合ひて激し雪降らす          野澤節子 色欲もいまは大切柚子の花           草間時彦 狡休みせし吾をげんげ田に許す         津田清子 一月の川一月の谷の中             飯田龍太 戦争と畳の上の団扇かな            三橋敏雄 晩涼の闇にこころの魚放つ           上村占魚 八頭いづこより刃を入るるとも         飯島晴子 コスモスの押しよせてゐる廚口         清崎敏郎 船焼捨てし/船長は//泳ぐかな        高柳重信 金魚玉とり落しなば鋪道の花          波多野爽波 汝が胸の谷間の汗や巴里祭           楠本憲吉 大雷雨鬱王と会うあさの夢           赤尾兜子 鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ         林田紀音夫 凩や馬現れて海の上              松沢昭 愛されずして沖遠く泳ぐなり          藤田湘子 東大寺湯屋の空ゆく落花かな          宇佐美魚目
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「現代俳句百八十句」入れ替え(追加は省略)・略歴(常に揺れ動いています)                           9.17  池内たけし 「仰向きに椿の下を通りけり」→ 「大原の小学校も冬休」  高屋窓秋 「頭の中で白い夏野となつている」→ 「ちるさくら海あをければ海へちる」 5.26  中村汀女 「とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな」→ 「外にも出よ触るるばかりに春の月」 5.24  沢木欣一 「八雲わけ大白鳥の行方かな」→ 「白桃に奈良の闇より薮蚊来る」  佐藤鬼房 「露けさの千里を走りたく思ふ」→  「やませ来るいたちのやうにしなやかに」 5.21  正岡子規 「鶏頭の黒きにそゝぐ時雨かな」→ 「夏嵐机上の白紙飛び尽す」  夏目漱石 「有る程の菊抛げ入れよ棺の中」→ 「秋風や屠(ほふ)られに行く牛の尻」 4.1  尾崎放哉 「壁の新聞の女はいつも泣いて居る」→ 「底がぬけた柄杓で水を呑まうとした」  富安風生 「一もとの姥子の宿の遅ざくら」→ 「まさをなる空よりしだれざくらかな」  山口青邨 「祖母山も傾山(かたむくさん)も夕立かな」→ 「人それぞれ書を読んでゐる良夜かな」 ********* 3.17(開設時点・候補複数・上の句を選ぶ)  正岡子規 「鶏頭の黒きにそゝぐ時雨かな」 「鶏頭の十四五本もありぬべし」  芥川龍之介 「初秋の蝗つかめば柔らかき」 「木がらしや目刺にのこる海の色」             高屋窓秋 「頭の中で白い夏野となつている」 「山鳩よみればまはりに雪がふる」  石田波郷 「ほしいまま旅したまひき西行忌」 「プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ」 「朝顔の紺のかなたの月日かな」  藤田湘子 「愛されずして沖遠く泳ぐなり」 「枯山に鳥突きあたる夢の後」 「揚羽より速し吉野の女学生」
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「アンケート」五点  『私の好きなこの一句』(柳川彰治編著、平凡社)  「私の好きな俳句ベスト25」(『文藝春秋 増刊 くりま 5月号』(2010年))  「昭和俳句の巨星 ベスト30」(『俳句界 2009年12月号』)より。   『女性俳人この一句』(柳川彰治・青弓社)  『松尾芭蕉この一句』(柳川彰治編著、平凡社)  『与謝蕪村この一句』(柳川彰治編著、平凡社)      ********************* 『私の好きなこの一句』(柳川彰治編著、平凡社)  アンケートによる集計は、いつも不安定な要素がつきものである。そもそも誰が答えるか、質問自体、 その聞き方によって大いに結果が変わる。あくまでも参考、目くじらをたてるものではない。  この本には「現役俳人の投票による上位340作品」と副題にある。そもそも「現役俳人」のどの層を アンケートに答える人としたのか、何年何月何日に行ったかによって大いに変わってくるのである。こ の本は2012年(平成24年)5月発行だが、アンケートが行われたのは、は「東日本大震災」の2011年 3月11日以前か以降かによっても変わる。  また、この本は現在発売中の本であり、そのまま利用するのはためらわれる。ただ俳句を作ろうとす る人には、参考の一つとして、有益でもある。その一部、29位(2句あり)まで、引用させていただ く。さらに興味のある人は、購入されるか、図書館で借りられるかなどされるとよい。なお、これらの 句は、すでに「現代俳句抄」でとりあげている。  1)海に出て木枯帰るところなし       山口誓子  2)芋の露連山影を正しうす         飯田蛇笏  3)をりとりてはらりとおもきすすきかな   飯田蛇笏  4)遠山に日の当りたる枯野かな       高濱虚子  5)一月の川一月の谷の中          飯田龍太  6)夏草や兵どもが夢の跡          松尾芭蕉  7)花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ      杉田久女  7)外にも出よ触るるばかりに春の月     中村汀女  9)去年今年貫く棒の如きもの        高濱虚子  10)菜の花や月は東に日は西に       与謝蕪村  11)湯豆腐やいのちのはてのうすあかり   久保田万太郎  12)閑(しづ)かさや岩にしみ入る蝉の声  松尾芭蕉  13)萬緑の中や吾子の歯生え初むる     中村草田男  14)谺して山ほととぎすほしいまま     杉田久女  15)水枕ガバリと寒い海がある       西東三鬼   16)(はまなす)や今も沖には未来あり 中村草田男  17)炎天の遠き帆やわがこころの帆     山口誓子  17)摩天楼より新緑がパセリほど      鷹羽狩行  19)はらわたの熱きを恃(たの)み鳥渡る  宮坂静生  20)冬の水一枝の影も欺かず        中村草田男  21)瀧落ちて群青(ぐんじょう)世界とどろけり 水原秋桜子  21)いくたびも雪の深さを尋ねけり     正岡子規  23)柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺      正岡子規  24)くろがねの秋の風鈴鳴りにけり     飯田蛇笏  25)荒海や佐渡によこたふ天の河      松尾芭蕉  26)冬菊のまとふはおのがひかりのみ    水原秋桜子   27)旅に病んで夢は枯野をかけ廻る     松尾芭蕉  28)ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜    桂信子  29)鰯雲人に告ぐべきことならず      加藤楸邨  29)流れ行く大根の葉の早さかな      高濱虚子  「私の好きな俳句ベスト25」
 「文藝春秋 増刊 くりま 5月号」(2010年)からで、俳人と俳句愛好家113名からのアンケー トである。なおこれらの句はすべてぼくの「古典俳句抄」「現代俳句抄」などに掲載されている。  1)この秋は何で年寄る雲に鳥       芭蕉  1)菜の花や月は東に日は西に       蕪村  3)去年今年貫く棒の如きもの       高濱虚子  4)荒海や佐渡によこたふ天の河      芭蕉  5)しら梅に明る夜ばかりとなりにけり   蕪村  6)旅に病んで夢は枯野をかけ廻る     芭蕉  7)閑(しづ)かさや岩にしみ入る蝉の声  芭蕉  7)夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡   芭蕉  7)さまざまの事思ひ出す桜かな      芭蕉 10)遠山に日の当りたる枯野かな      高濱虚子 10)咲き満ちてこぼるる花もなかりけり   高濱虚子 10)糸瓜咲て痰のつまりし仏かな      正岡子規 10)海に出て木枯帰るところなし      山口誓子 10)湯豆腐やいのちのはてのうすあかり   久保田万太郎 15)牡丹散て打かさなりぬ二三片      蕪村 15)稲づまや浪もてゆへる秋つしま     蕪村 15)愁ひつつ岡にのぼれば花いばら     蕪村 15)流れ行く大根の葉の早さかな      高濱虚子 15)いくたびも雪の深さを尋ねけり     正岡子規 15)雪とけて村一ぱいの子ども哉      一茶 15)をりとりてはらりとおもきすすきかな  飯田蛇笏 15)一月の川一月の谷の中         飯田龍太 15)秋風や模様のちがふ皿二つ       原石鼎 15)谺して山ほととぎすほしいまま     杉田久女 25)海暮れて鴨の声ほのかに白し      芭蕉 25)よく見れば薺花さく垣根かな      芭蕉 25)蛸壺やはかなき夢を夏の月       芭蕉 25)行く春や鳥啼き魚の目は泪       芭蕉 25)明けぼのやしら魚しろきこと一寸    芭蕉 25)秋深き隣は何をする人ぞ        芭蕉 25)この道や行く人なしに秋の暮      芭蕉 25)あかあかと日は難面(つれなく)も秋の風 芭蕉       25)葱(ねぶか)買(かう)て枯木の中を帰りけり 蕪村 25)涼しさや鐘をはなるるかねの声     蕪村 25)露の世は露の世ながらさりながら    一茶 25)鶏頭の十四五本もありぬべし      正岡子規 25)湾曲し火傷し爆心地のマラソン     金子兜太 25)水脈の果て炎天の墓標置きて去る    金子兜太  25)芋の露連山影を正しうす        飯田蛇笏 25)天の川わたるお多福豆一列       加藤楸邨 25)雁やのこるものみな美しき       石田波郷 25)初蝶やわが三十の袖袂(そでたもと)  石田波郷 25)水枕ガバリと寒い海がある       西東三鬼 25)人恋し灯ともしころをさくらちる    加舎白雄 25)頭(づ)の中で白い夏野となつてゐる  高屋窓秋 25)日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり     松瀬青々 25)冬菊のまとふはおのがひかりのみ    水原秋櫻子 25)たんぽぽや長江濁るとこしなへ     山口青邨  「昭和俳句の巨星 ベスト30」 『俳句界 2009年12月号』    俳人約300名に「好きな昭和の俳人3名」(物故者のみ)をアンケート。30位(6人)まで。 なおこれらの俳人は、すでに「現代俳句抄」でとりあげている。  1)高濱虚子  2)石田波郷  3)飯田龍太  4)加藤楸邨  5)中村草田男  5)山口誓子  7)西東三鬼  8)飯田蛇笏  8)三橋敏雄  10)橋本多佳子  11)高柳重信  11)水原秋桜子  13)秋元不死男  13)飯島晴子  13)細見綾子  16)桂信子  16)川端茅舎  16)高屋窓秋  19)阿波野青畝  19)久保田万太郎  19)能村登四郎  19)渡邊白泉   23)攝津幸彦  23)永田耕衣   25)上田五千石   25)富澤赤黄男  25)野見山朱鳥   25)波多野爽波   25)山口青邨  30)安住敦   30)京極杞陽    30)鈴木六林男   30)高野素十   30)三橋鷹女     『女性俳人この一句』(柳川彰治・青弓社) アンケート結果の上位十位までのみ。  (著作権の問題もあり、続きは、本を買うか、図書館で借りて読むということでよろしく。) すでにぼくのサイトで引用している句ばかりで、俳句への誘い水といっていい。 1.花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ      杉田久女 2.外(と)にも出よ触るるばかりに春の月  中村汀女 3.ゆるやかに着てひとと逢う蛍の夜     桂信子 4.短夜や乳ぜり泣く児(こ)を須可捨焉乎(すてつちまをか) 竹下しづの女 5.谺して山ほととぎすほしいまま      杉田久女 6.白露や死んでゆく日も帯締めて      三橋鷹女 7.まだもののかたちに雪の積もりおり    片山由美子 8.じゃんけんで負けて蛍に生まれたの    池田澄子 9.あはれ子の夜寒の床の引けば寄る     中村汀女 10.雪はげし抱かれて息のつまりしこと   橋本多佳子  『松尾芭蕉この一句 現役俳人の投票による上位157作品』(柳川彰治編著 平凡社 2009)    から上位三十位まで (三十位以下は各自その本を直接手にとってみて下さい) 1  荒海や佐渡によこたふ天の河 2  閑(しづ)かさや岩にしみ入る蝉の声 3  夏草や兵どもが夢の跡 4  旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 5  五月雨をあつめて早し最上川 6  海暮れて鴨の声ほのかに白し 7  この道や行く人なしに秋の暮 8  石山の石より白し秋の風 9  五月雨の降り残してや光堂 10 秋深き隣は何をする人ぞ 11 おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉 12 象潟や雨に西施が合歓(ねぶ)の花 13 古池や蛙飛びこむ水の音 14 行く春を近江の人と惜しみける 15 さまざまの事思ひ出す桜かな 16 菊の香や奈良には古き仏達 17 この秋は何で年寄る雲に鳥 18 行く春や鳥啼き魚の目は泪  19 野ざらしを心に風のしむ身哉 20 あかあかと日は難面(つれなく)も秋の風 20 山路来てなにやらゆかし菫草 22 旅人と我が名よばれん初しぐれ 23 雲の峰幾つ崩れて月の山 24 田一枚植ゑて立ち去る柳かな 25 一家に遊女も寝たり萩と月 26 蛸壺やはかなき夢を夏の月  27 暑き日を海に入れたり最上川 28 蛤のふたみに別れ行く秋ぞ 29 明けぼのやしら魚しろきこと一寸 30 若葉して御目の雫ぬぐはばや  『与謝蕪村この一句 現役俳人が選んだ上位句集』(柳川彰治編著 青弓社 )    から上位二十位まで (二十位以下は各自その本を直接手にとってみて下さい) 1. 菜の花や月は東に日は西に 2. さみだれや大河を前に家二軒 3. 春の海終日(ひねもす)のたりのたり哉 4. 月天心貧しき町を通りけり 5. 牡丹散(ちり)て打かさなりぬ二三片 6. 涼しさや鐘をはなるるかねの声 7. 夏河を越すうれしさよ手に草履 8. 鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉  9. 朝がほや一輪深き淵のいろ 10.愁ひつつ岡にのぼれば花いばら 11.ゆく春やおもたき琵琶の抱心 12.葱(ねぶか)買(かう)て枯木の中を帰りけり 12.斧入て香におどろくや冬こだち 14.几巾(いかのぼり)きのふの空のありどころ 15.しら梅に明(あく)る夜ばかりとなりにけり  16.身にしむや亡妻(なきつま)の櫛を閨(ねや)に踏 17.春雨や小磯の小貝ぬるるほど 17.遅き日のつもりて遠きむかしかな 19.御手討の夫婦(めをと)なりしを更衣 20.二村に質屋一軒冬こだち 20.はるさめや暮なんとしてけふも有 20.春風や堤長うして家遠し 20.四五人に月落ちかかるおどり哉 20.楠の根を静にぬらす時雨哉 20.去年より又さびしいぞ秋の暮
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