隠語のバラード


(イカロスの墜落<部分>・ブリューゲル)


 
バラード I

快楽の都、花のパリでは
へまな奴らが首捕まえられ、身体黒びてぶら下げられている。
好色なお巡りに五人、六人と捕まって。
パリではいかさま師たちが、高い高い所で、
風に吹かれて、洗濯もののように、ぶら下げられている。
壁のぶ厚い牢獄を避けろ。
犯した罪ゆえ耳を切られた巾着切りは
そのうち無に帰することになるのだから。
気をつけろ。絞首台の綱には気をつけろ。

金持ちの通行人に飛びかかれ。
すばやく彼らの金を狙え。
野原を大股で逃げろ。
絞首台に上がらぬように、
絞首台で石膏より顔白くならないようにね。
もしお巡りに追われたら、
すばやく、このやっかいものたちから逃れることだ。
お尻だけ彼らに見せながら、逃げに逃げることだ。
手足もろとも、縛られてしまわないために。
気をつけろ。絞首台の綱には気をつけろ。

最後の手段の錠前をあける鉤は隠しておけ。
責め道具の鋭い足かせのくさびを、そして
ぶ厚い壁の牢獄に積み重ねられた藁の上に
座ることになることを恐れるゆえに。
逃げろ。かたくなにならずにね。
裁判官が洗濯物のように風に君らをさらさないように。
ためらわずにへつらうことだ。
ながながとでたらめを言え
馬鹿どもから身ぐるみはぎ取るために。
気をつけろ。絞首台の綱には気をつけろ。

ちっぽけな金庫を破る君よ、
馬鹿どもといっても一人ぐらいは寝ていないかも、
捕まらないように逃げることだ。
最悪の事態にはならないようにね。
気をつけろ。絞首台の綱には気をつけろ。


バラード II

恐喝をこととするコキヤール党員たちよ、
おれは君たちに言う、気をつけろと、
身体や皮を失わないようにすることだね。
コラン・ド・カイユーは
裁判所でしゃべらされて、
自分の命を救おうとあれこれしゃべってみたが、
裁判官の涙さそえず。
そういうわけで死刑執行人に首へし折られた。

着るものをたびたび変えることだ。
どこでも高いところへまっすぐ逃げることだ。
すばやく逃げろ。
死刑囚のだぶだぶの服はごめんだ。
モンチニーの例がある
絞首台に高々と吊り下げられて
声ふるわせてしゃべったが、無駄なこと。
そういうわけで死刑執行人に首へし折られた。

詐欺の道にたけたものよ、
お巡りを遠ざけろ、
すばやく逃げろ、流血てことにならないように。
わが仲間よ、分捕り品を分けようとする時つかまって、
まぬけたちの喉を締めつけるまっすぐぶらさがった紐に
喉をしめられ、
そのためにこの世からおさらばってことにならないように。
そういうわけで死刑執行人に首へし折られた。

恐喝の王者よ、人殺しはやめることだ。
金や獲物はえられなくともしかたない。
上訴しようにも喉がふさがってままならなくなるよりはましだ、
首をへし折る死刑執行人のせいでね。


バラード III

詐欺師たちよ、
君らは、ふだんは、
ワイン壺においしいワインを
いれて出し、
夜遅くなれば
哀れなお人好たちの金を巻き上げる。
君らの浪費を支えるため、
お人好たちは、金を盗まれる。
騒ぐこともなく、
叫び声をあげることもなく。
彼らは、間抜けの見本の様に、だまされる、
抜け目のない君らによって。

彼らは、しばしば、女たちの
ベッドの中で、
身ぐるみはがされる、
彼女たちを攻めたてようと、
ものにしようとして。
彼らに罠をかけよう。
君らは、ベッドの側に隠れて、
遊び好きの彼らに
二、三発くらわしてやれ。
額に、二、三発くらえば、
殴り殺されたようなもの。
抜け目のない君らに代わって。

そういうわけで、小器用な
コキヤール 党員たちよ、
絞首台から遠ざかることだ。
絞首台のため、君らの尻は空中にさらされ、
君たちは、好色の心にかられて、
女をものにしょうとするあまりに、
結局、無に帰してしまうのだ。
これはお人好したちには、
高い授業料だ。
彼らは、ペスト患者のように嫌われる巡査たちを
殴りつけ、
殴り殺そうとする。
抜け目のない君らに代わって。

絞首台の横木や
柱に関わらないように、
ぺてんや策略にたけるようになれ。
牢獄に入れられないように。
抜け目のない君らのためにつくられた牢獄には。


バラード IV

鍵型を手にいれようとする者よ、お金を奪い取ろうと、
それを利用して大きな金庫をこじ開けようとする君たちよ。
気分をかえ、ほかのところに女を抱きにいくことだね。
お喋りの君ら、君らは巧妙な詐欺師に違いはないが。
仲間を装う裏切りものが君たちのところにくるぞ、
鍵型をもっているなどと言って。
仲間たちよ、彼らをだますことだ。
ぶ厚い牢獄には気をつけろ。

たとえ君たちが手癖のわるいお巡りに
捕まっても
すぐに、マントと頭巾をまとって、
死刑執行人に余計な手間をかけないようにずらかることだ。
鎖に締められ喉を切られるぞ、
立っていれればともかく、座ればお終い。
そういうわけで、つかまらないことだ、
ぶ厚い牢獄には。

愚か者は、捕まって、
やがて、絞首台にぶら下げられる。
できることといえば、
麻糸を撚った綱につかまることだが、
それも、結局は、頭髪をさかだてさせるだけだ。
つりさげられると、喉が締めつけられ、
男根も立ってくる。
せっかく、ぶ厚い牢獄からでたというのに。

ぺてんの王よ、押し込みの道具をすてろ。
仲間たちが、金庫破りと疑われ、
捕まらないように。
ぶ厚い牢獄には、気をつけろ。


バラード V

ぺてんの術にたけたぺてん師よ、
だましやすい所をねらえ。
お巡りの親方トスカが、君たちの先輩がぶら下げられているところに、
君たちのお尻を送りこまないように。
足を使って、逃げろ。
というのも、君らはやがて、縄の先で、鼻汁をたらすことになるから。
首を締められないように、気をつけろ、
死刑執行人の手にかかって。

汚いやり方にはちゃんと立ち向かえ、
奴らが、君たちをすっからぴんにする時には。
というのは、奴ら、お巡りやその一味の横取りには、
際限がないからだ。
できるなら、仲間を装う裏切り者をしまつしろ。
もし彼らのなすがままに追いつめられ捕まったら、
しょせん、大地はおがめないことになる。
死刑執行人の手にかかったら。

司法関係には気をつけろ。
余計なこと考えずに、彼らをだませ。
絞首台の上で、雨に洗われたり、
体の皮をなめされたりしないようにね。
時をおかず、逃げろ。
鼻汁さらすあわれな輩にならないように。
女を抱くのは他のところにしろ。逃げろ。
死刑執行人の手のとどくところから。

ぺてんにあたって、ついつい喋りすぎる王よ、
絞首台の綱にかからないように、
丘など高いところにとにかく逃げろ。
まわりを用心することだ、
死刑執行人の手を。


バラード VI

放蕩のやから達よ、
贋金と本当の金を区別できるようになれ。
雑踏の中では、
カモの隠し所の金を自分のものとせよ。
相手の財布を狙え。
司法関係には気をつけろ。
そのために、わが馬鹿者どもはつらいめにあうことになる、
絞首台で、しかめ面をするはめに。

余計な争いは避けろ。
悪いことにならぬように。
絞首台の横木に
ぶらさげられぬように。
金を盗れ、愛の沙汰はあきらめろ。
懐深く、手をいれて盗め。
というのは、顔に風浴びて、おろか者は、
絞首台で、しかめ面をするはめになるから。

贋金を使え、
あちこちで、真贋どちらであろうとも。
とにかく、どんな技でも使え。
本物に似せて、貨幣の縁を削り取れ。
大胆になって、
贋金を売りさばけ。
だが、しっかり用心をせよ。
絞首台で、しかめ面をするはめになるから。

王よ、<豚の市>の処刑場を
避けるだけの元気の良さがなければ、
結局、油煮えたぎる釜の上に吊り下げられ、
しかめ面をするはめになる。


バラード VII

快楽の都、花のパリでは、       
悪賢い奴らが、あばずれ女と集まって*、    *絞首台にぶら下げられ、烏につつかれるの意味もある
結婚式*の宴開かれ、美しい音楽聞こえ、    *絞首台での死との結婚式( 絞首刑) の意味もある
詐欺師が上座をしめ、共に、        
耳切られた盗人らの座るは、
青葉しかれた祝宴の席*、                               *草敷き詰められた牢獄の意味も
美味い酒、美味しい料理*がふるまわれる。   *絞首台で、烏がついばむ餌の意味も
しかし、コキヤール 党の面々のそんな生活はながくはもたぬ、
間抜けていようとそうでなかろうと、そのうちいやおうなく捕まえられる。
それにしても、最悪は絞首刑だぞ。− しかたがない。

よけいなことには耳かすな、どんなことをいわれても。
そうすると、君らの多くは許されることもありうるかも。
牢獄では金もっていても何の役にもたたぬ、金万能のロンバルディアでもそうだが。
気をつけろ、ぶ厚い牢獄には気をつけろ。
窓は鉄の頑丈な格子で仕切られているのだ。
女たちといちゃつくのも良かろう、ましな思いも出来よう。
金貨をつかんだら、離すな。
お巡りが目の前を通り過ぎてゆくのをちゃんと見ておけ。
金貨は新旧いずれにしてもとってしまえ。
それにしても、最悪は絞首刑だぞ。− しかたがない。

何をしているの?−流し稼業、ひも稼業、あらゆることを。
泥棒と街の女を、まとめてめんどうみてやれ。
みだらなこともできるように、快適な部屋をあてがってやれ。
そして夜、阿呆が疲れきったとき、
金品がたっぷりつまった胴着を奪え。
新しい良い靴で逃げろ。
見張りには耳をすませて気をつけろ。用心深く。
そいつが通りすぎるまで、隠れておけ。
というのも、捕まれば、絞首台で鼻水たらすことになるからだ。
それにしても、最悪は絞首刑だぞ。− しかたがない。

詐欺師の王よ、本当のことをいおう。
コキヤール 党員の多くが、そんなことをしたせいで、
かわいそうにも、寿命よりはやばやと死ぬことになる、
最後には、髪の毛をかきむしり。
それにしても、最悪は絞首刑だぞ。− しかたがない。


バラード VIII

錠こじ開ける鉤とも呼ばれる、かの高貴なる王の
臣下として、その働きで領地、封土を与えられた君たち、
たっぷり逃げろ、いそいで逃げろ、
大股で逃げろ、
〔馬鹿ものどもが連れていかれる絞首台から。〕
溜め息に満ちたこの牢獄を見よ、
そこからでることができた足跡などはないのだ。
目を見開いて、眼鏡をちゃんとかけて見ろ。
君らを逮捕しようと、見張っているぞ、
いじわるい、狡猾なお巡りが、拷問役の役人が。

金をとにかく手にいれたいやつ、不具者をよそおうやつ、
盗人、すり、
あちらこちらさまよっている物乞いども、
君らは、路上で、嘲笑ぎみに、お布施をねだる。
君らの隠語で、君らの行くところどころで、
野原であろうと、路上であろうと、お金をねだる。
君らはまた、女を手にいれようとして、
金に手を出し、手錠に手をいれることになる。
いずれにしろ、恐れるべきは
いじわるい、狡猾なお巡り、そして拷問役の役人だ。

悪賢いやつ、威張るやつ、口先だけのやつ、
乞食仲間もこけにする口舌にたけた乞食たちよ、
夜、君らが仕事にでかけるとき、
情報を集めて、それをちゃんと確かめろ、
変装したお巡りが待ち伏せていないかどうか、
盗みをしようとする町に。
馬鹿そのものになってしまうぞ、
捕まって、牢獄へってことになると。
いずれにしろ、恐れるべきは
いじわるい、狡猾なお巡り、そして拷問役の役人だ。

君よ、偽のサファイア売りさばく詐欺師ら、彼らは
指に真珠をキラキラさせている。
物乞いたち、偽の聖遺物を売りあるくやつら、
こういったやからは、特に恐れよ、
いじわるい、狡猾なお巡り、そして拷問役の役人を。


バラード IX

おれは見た、この前、稼ぎにいこうとしているとき、
わが楽しき町のわれらの酒場の一つで、
博打熱をかき立てるかのように火が美しく燃えているのを。
突然、おれは見たのだ、だまそうとして、
一人のひもが、二人の見習と一緒にいるのを。
やつは、酒手を調達と、二人の若造をけしかけて、
釣銭泥棒などをしている。
このおれは、楽しき酒場をうかがった。
そのひもは愛想よく、ていねいに、
酒飲みながら、隠語でしゃべっていた、
阿呆から金巻き上げようと。

酒を飲んだあと、おれは見た、一人の乞食が、
もっと稼げるように、テーブルを傾けようとしているのを。
それも、いかさま用の鉛をしこんださいころが、
うまくころがるように。
そして、一人の乞食が言う。「おれは、銀貨二枚なくしてしまった。」
もう一方の乞食は、ひもや悪たれたちから盗む。
女のほうも、たびたびお金を盗む。
ベテランの盗人は、準備は十分できていて、こう言う。
「急ごう、聖ヤコブにかけて、おれは逃げるぞ。
酒を飲んだら、他のところへ逃げることだ。
阿呆から金巻き上げるために。」

空を見上げて乞食が言う。
「ペテンで儲けた金はすべてなくしてしまった。
あいつがおれをだましたのだ、平手打をくらわしたあの女が。
彼女によって、おれは市場のマントよりも見事に盗まれた。
彼女はひもたちのもとへ急いでかけつける。
身をまかす前に、お客のお金を、
くすねとるのが彼女の役目。
彼女のもとにかよって、おれの財布はうすっぺら。
かせいだ金は、ぼろぎれほども残ってはいない。
だが、あいかわらず彼女は、すごくべっぴんだ、
阿呆から金巻き上げられるわけだ。」

粋人の君よ、女に金を払うとき、
彼女がよけいなものを身につけていないか、女をよく調べろ。
彼女のあそこに、血がにじんでいたら、身を引くことだ、
彼女が金を巻き上げる罠をしかけるとこまるので、
阿呆から金巻き上げるために。


バラード X

逃げろ、馬鹿者ども、逃げるんだ、
裁判で身の皮をはがれることになるぞ。
いかさま師よ、ペテン師よ、それぞれ逃げろ。
気をつけろ、気をつけろ、コキヤール 党は全滅することになるぞ。
絞首用の縄がいたるところにあるぞ、詐欺師だったら気をつけろ。
あの楽しい牢獄にすんでいるものは、そういうわけで、
釈放されないかぎり、頂戴することになる、
柳の笞を、死刑執行人の愛撫を。

多くのコキヤール党員が、自由奪われ、
耳そがれ、腕切られたりしているが、
それでも、ほら話にたけ、ペテンにひいでていて、
考えることといったら、金ちらつかせ、判事たちをからかってやろうとか、
絞首刑をさける方法を見つけようとか。
金をくすめるには、三人一組になって、ことにあたれ、
さもないと、お尻に火が付くほどのお仕置きを頂戴するはめに、
柳の笞を、死刑執行人の愛撫を。

心に平安と喜びをもつものは、動揺することはない。
牢に入れられないように気をつけろ。
これがわが忠告だ、最上とはいえないが。
なんだって? どんなことをやらかしても、満足ということはないのだ。
その結末は、盗みは結局役にはたたぬという鵞鳥の諺のようなものだ。
というのは、捕まったものは、たとえうまくいっても、
町をひきまわされて、
柳の笞を、死刑執行人の愛撫をうけいれるはめに。

ダヴィド王ばんざい、聖アルシュカン、さいころ遊びよ、
賭事遊びよ、そのため財布が空になってしまうわけだが。
すりにして、梟のような詐欺師は、
自分の欲の深さと自分のわざに満足できず、
欲望の満足からは、そして貪欲な策略をまっとうするにはほど遠く、
恐れているのだ、−身の震えを感じながら−
柳の笞を、死刑執行人のやさしい愛撫を。


バラード XI

時は冬、川岸の方から、
楽しき町へ、娼婦や盗人の女房や浮気な女たちが、
やってくるのをおれは見た。
そして、商人たちが、その仕事に必要なようなものを、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ペテンと詐欺にたけた、悪賢い乞食たち、
彼らは、抜け目なく、がめつく、ずうずうしく、冗談好きだが、
習慣から、楽しき町へ、
あちこちから、詐欺の仕事をしようとやってくる、
陽気なばかさわぎ続けようと。

霧をさらにうちはらい、ふきはらうように、
彼らは、グルノーブルから、多くの酒瓶と
ふとった鶏をたくさん運んでくる。
棒を使わず、ひょうたんをたたいて、
・・・・・・・・・・・・・・・・
彼らは、あらゆる事についてしゃべりまくる、
棚にパンがなくなる日まで。
指輪、大小の金貨、銀貨など、分捕り品の
すべてを広げて、分けるのだ、
陽気なばかさわぎ続けようと。

遊び好きなやつから、うまく盗み、むしりとるために、
上から下までじろじろ見るのだ、
隠してあるものなど何もないといえるまで。
そして、さいころをふる。
それから、お巡りがくるのを恐れて、
ドアに差し錠をしたり、鍵をかけたりする、
馬鹿どもから、ちゃんと金を巻き上げるために。
そこでは、物乞いが上着を盗まれ、
そして、彼らは、ロンバルディア人に金借りにゆく、
陽気なばかさわぎ続けようと。



《「バラード II」の重層的な訳》
 細川哲士氏は『平凡社大百科事典』 (1985年初版) の「ビヨン」の項目の中で、「《隠語によるバラード》の総合的解読を試みたP・ギロー(1968 発表)説くところによれば、作品は三重の意味層からなっており、 1。お上と悶着をおこすなりわいのこと、 2。仲間のあいだの博打のこと、 3。男性間の愛のこと、これらのことが同時に読み取れるようにできているという。しかし、余人にはこの説の当否を論じられないほど、この詩はまったく歯の立たない謎の作品である。」と書いておられる。いずれにしろ、ミッシェル版のミッシェル自身による『隠語によるバラード』の解説にあるように、「P・ギロー の仮説はヴィヨンの芸術への新しい地平をひらいた。しかし、注釈者の大部分は、留保なしには、その説を是認はしていない。」というのが、平均的な答えのようだ。しかし、ヴィヨン研究の重鎮、デュフルネが彼の版の序論で述べているように『隠語によるバラード』には「複数的な意味の層」と「あらゆる言語上の遊びに対する好み」が見られるのは確かである。
ただ、意味の重層性、言葉遊びは、『隠語によるバラード』だけではなく、ヴィヨン詩全般について、留意すべき重要な点である。
上記の翻訳は、「1。お上と悶着をおこすなりわいのこと」、つまり、一般に受け入れられている次元における翻訳である。P・ギローのやや強引すぎると思える記述を参考にして、「2。仲間のあいだの博打のこと 3。男性間の愛のこと」の二つの面を「バラード II」を例にとって翻訳してみる。「2。 3。」の訳は、そう解釈できるという可能性があるのみで、まったくの試訳というしかない。
ただ、「バラード II」が、まったく別の詩であるかのように、見事に変身しているのを、わかってもらえば充分である。
 1。バラード II   (上記翻訳)

恐喝をこととするコキヤール党員たちよ、
おれは君たちに言う、気をつけろと、
身体や皮を失わないようにすることだね。
コラン・ド・カイユーは
裁判所でしゃべらされて、
自分の命を救おうとあれこれしゃべってみたが、
裁判官の涙さそえず。
そういうわけで死刑執行人に首へし折られた。

着るものをたびたび変えることだ。
どこでも高いところへまっすぐ逃げることだ。
すばやく逃げろ。
死刑囚のだぶだぶの服はごめんだ。
モンチニーの例がある
絞首台に高々と吊り下げられて
声ふるわせてしゃべったが、無駄なこと。
そういうわけで死刑執行人に首へし折られた。

詐欺の道にたけたものよ、
お巡りを遠ざけろ、
すばやく逃げろ、流血てことにならないように。
わが仲間よ、分捕り品を分けようとする時つかまって、
まぬけたちの喉を締めつけるまっすぐぶらさがった紐に
喉をしめられ、
そのためにこの世からおさらばってことにならないように。
そういうわけで死刑執行人に首へし折られた。

恐喝の王者よ、人殺しはやめることだ。
金や獲物はえられなくともしかたない。
上訴しようにも喉がふさがってままならなくなるよりはましだ、
首をへし折る死刑執行人のせいでね。

 2。隠語による〔トランプいかさま師の〕バラード II

隠しポケットから、カードをだそうとするコキヤール党員よ、
おれは、勝ちカードを出して、とにかく君たちに渡してやる。それも、
君たちの大事な切り札や賭札をなくさないように気をつけてほしいからだ。
コラン・ド・カイユーはうまくはいかなかったけど。
彼は、カードを選ぶ前に
とにかくその場を切り抜けようと
自分の隠しポケットから切り札を出そうとしたが、それもできずに、
命失う一撃をくらった。

手の内をいろいろ変えて、
周到に、隠しポケットからカードを出すことだ、
隠しポケットからカードを出しやすいように、
ポッケには襞がないようにすることだ。
モンチニーはうまくはいかなかったけど。
彼はカードを出しているまさにその時、捕まった。
自分の不器用さを呪ったときに、
命失う一撃をくらった。

ぺてんにたけた御仁よ
隠しポケットからだしたカードで勝を決めるため、
攻勢に出よ、恐れずに、それも、
仲間たちが、決定的なその時に、
ポケットに勝ちカードを、残していたってことにならないようにね。
勝ちカードは、へまなの奴の隠しポケットに残って、
結局、勝ちカードをあばかれて、
そのため、奴は命失う一撃をくらった。

わが君よ、さあ、ちゃんとやることだ。
うまくいかないことがおこっても、とにかく、
隠しポケットにはカードは残さないことだ。
命失う一撃をくらうときに。

 3。隠語による〔男色家の〕バラード II

フェラチオを強いられるコキヤール党員よ
おれは、ペニスの角度を少し変えよう、
君たちが男根と金玉を損ねないようにね。
コラン・ド・カイユーはうまくいかなかったけど。
フェラチオを強いられるにあたり、
とにかく切り抜けようと唇の端ですまそうと工夫したが、
うまく切り抜けることはできず、
死刑執行人は彼に精液をはきかける。

男色者たちをすばやくだませ。
とりあえず、ペニスに口をあてろ。
精液をぬぐいさろうとして、結局は喉一杯に
つめこまれないように気をつけろ。
モンチニーはうまくいかなかったけど。
フェラチオを強いられた彼はね。
彼が精液をのみこんだかは神のみぞ知る。
死刑執行人は彼に精液をはきかける。

フェラチオにたけた御仁よ
離れた所でペニスから射精させるようにして、
まずは、濡れないように、避難せよ。
仲間たちが、喉に
棍棒の一撃たる男根をつめこまれないように、
そいつは、わが馬鹿者たちの喉のひりひりさせる。
固いものにふかくとらわれて、
彼らは死刑執行人に精液をはきかけられる。

わが君よ、精液からは遠ざかれ。
ちょっとだけ受け入れなければならなくても、
喉に金玉は避けることだ。
精液をはきかけてくる死刑執行人のその金玉は。
◆ タイトルに戻る ◆

フランス古語のしかも特殊な隠語で書かれているので、注をつければきりがない。注は下記の「静岡大学教養部研究報告」にあるが、ここでは別の機会にゆずりたい。
訳出にあたって参考にした版本などは、Ballades en jargon(フランス語)の最後に掲載している。

(初出 「静岡大学教養部研究報告」1994)


Ballades en jargon(フランス語)

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