古典俳句抄 (敏光抄出)

芭蕉句集  (「『奥の細道』全句」等掲載)
蕪村句集  (俳詩掲載)



 
 宗祇 (1421-1502)
世にふるも更に時雨の宿りかな
雪ながら山本かすむ夕べかな
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 宗長 (1448-1532)
菫咲く野はいくすじの春の水
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 山崎宗鑑 (?-1539,40?)
元朝の見る物にせん富士の山
にがにがしいつまであらしふきのたう
手をついて歌申しあぐる蛙かな
月にえをさしたらばよき團(うちわ)かな
風寒し破れ障子の神無月
佐保姫の春立ちながら尿(しと)をして
盗人を捕らへてみれば我が子なり
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 荒木田守武 (1473-1549)
元朝や神代のことも思はるる
とび梅やかろがろしくも神の春
落花枝にかへると見れば胡蝶哉
青柳の眉かく岸の額かな
夏の夜は明くれどあかぬまぶた哉
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 松永貞徳 (1571-1653)
鳳凰も出でよのどけきとりの年
霞さへまだらに立つや寅の年
しをるるは何かあんずの花の色
 (注)あんず:「杏の花」と「案ず」の掛詞。
ゆきつくす江南の春の光哉
 (注)ゆきつくす:「行き尽す」と「雪尽す」をかけている。
花よりも団子やありて帰る雁
皆人のひる寐のたねや秋の月
冬ごもり虫けらまでもあなかしこ
天人や天くだるらし春の海
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 野々口立圃 (1595-1669)
天も花にゑへるか雲のみだれ足
 (注)ゑへるか:酔っているからだろうか。
霧の海の底なる月はくらげ哉
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 松江重頼 (1602-1680)
やあしばらく花に対して鐘つく事
 (注)せっかくの花ざかりなのに、鐘をつけば花が散ってしまうではないかと。
順礼の棒ばかりゆく夏野かな
秋や今朝一足に知るのごひ縁
 (注)のごひ縁:「拭い縁」、よく拭きこんだ縁側。
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 安原貞室 (1610-1673)
これはこれはとばかり花の吉野山
歌いくさ文武二道の蛙かな
 (注)『古今集』の序に蛙が歌を詠むとし、また蛙合戦も有名。
いざのぼれ嵯峨の鮎食ひに都鳥
そちは何をなげきの森のよるの蝉
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 北村季吟 (1624-1705)
一僕とぼくぼくありく花見哉
地主からは木の間の花の都かな
腰をふる門の柳やかぶきもの
まざまざといますが如し魂祭
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 杉木望一 (1585-1667)
ほこ長し天が下照る姫はじめ
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 田捨女 (1634-1698)
水鏡見てやまゆ(眉)かく川柳
雪の朝二の字二の字の下駄のあと
肌かくす女の肌のあつさ哉
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 西山宗因 (1605-1682)
さればこそ爰(ここ)に談林の木あり梅の花
ながむとて花にもいたし頸の骨
里人のわたり候ふか橋の霜
となん一つ手紙のはしに雪のこと 
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 高尾 
君は今駒形あたり時鳥
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 井原西鶴 (1642-1693)
長持に春ぞくれ行く更衣
大晦日定めなき世の定め哉
浮世の月見過しにけり末二年
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 大淀三千風(みちかぜ)(1639-1707)
武蔵野の月の山端や時鳥
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 伊藤信徳 (1633-1698)
富士に傍(そう)て三月七日八日かな
雨の日や門提げて行くかきつばた
六月や水行く底の石青き
稲妻に浴(ゆあみ)してゐる女かな
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 小西来山 (1654-1716)
元日やされば野川の水の音
白魚やさながら動く水の色
春雨や降るともしらず牛の目に
見かへれば寒し日暮の山桜
春の夢気の違はぬがうらめしい  (浄しゆん童子早春世をさりしに) 
行水も日まぜになりぬむしのこゑ
秋風を追へば我が身に入りけり
我が寐たを首上て見る寒さかな
   ☆
お奉行の名さへおぼえず年暮れぬ
門松や死出の山路の一里塚
涼しさに四つ橋を四つ渡りけり
秋風を追(おへ)ば我身に入りにけり  
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 池西言水(ごんすい)(1650-1722)
猫逃げて梅動(ゆすり)けりおぼろ月
菜の花や淀も桂もわすれ水
鯉はねて水静か也郭公(ほととぎす)
凩の果はありけり海の音
行く我もにほへ花野を来るひとり
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 椎本才麿(1658-1738)
笹折りて白魚のたえだえ青し
しら雲を吹き盡したる新樹かな
猫の子に嗅がれてゐるや蝸牛
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 上島鬼貫(おにつら)(1661-1738)
春の水ところどころに見ゆる哉
庭前に白く咲いたる椿かな
草麥や雲雀があがるあれ下がる
桃の木に雀吐出す鬼瓦
春風や三保の松原清見寺
永き日を遊び暮れたり大津馬
骸骨のうへを粧(よそ)ひて花見かな
花散て又しづかなり園城寺
鴬の青き音をなく梢かな
目は横に鼻は竪(たて)なり花の春
から井戸へ飛びそこなひし蛙よな
草麦や雲雀があがるあれさがる
戀のない身にも嬉しや衣がへ
涼風や虚空にみちて松の声
なんとけふの暑さはと石の塵を吹く
とび鮎の底に雲行く流れかな
鵜とともに心は水をくぐり行く
さはさはと蓮うごかす池の亀
水無月や風に吹れに故里に
あの山もけふの暑さの行方かな
冬はまた夏がましじやといひにけり
すず風やあちら向いたるみだれ髪
そよりともせいで秋立つ事かいの
むかしから穴もあかずよ秋の空
行水の捨どころなきむしのこゑ
によつぽりと秋の空なる富士の山
秋風の吹きわたりけり人の顔
面白さ急には見えぬすゝきかな
魂棚や蚊は血ぶくれて飛びあるく
世には着て親に背くを馬鹿踊
木も草も世界みな花月の花
樅の木のすんと立たる月夜かな
名月や雨戸を明けて飛んで出る
この秋は膝に子のない月見かな
おとなしき時雨をきくや高野山
水鳥のおもたく見えて浮きにけり
冬枯や平等院の庭の面
ひうひうと風は空ゆく冬ぼたん
あらたのし冬立つ窓の釜の音
つくづくと物のはじまる火燵かな
水よりも氷の月はうるみけり
人間に智慧ほどわるいものはなし
白妙のどこが空やら雪の空
青雲や鷹の羽せせる峯の松
河豚食うてその後雪の降りにけり
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 山口素堂 (1642-1716)
目には青葉山ほとぎすはつ松魚(がつお)
あはれさや時雨るる頃の山家集
われをつれて我影帰る月夜かな
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 宝井(榎本)其角  (1661-1707)
日の春をさすがに鶴の歩み哉
鐘ひとつ賣れぬ日はなし江戸の春
鴬の身をさかさまに初音かな
うつくしき顔かく雉の距(けづめ)かな
御秘蔵に墨をすらせて梅見哉
綿とりてねびまさりけり雛の貌
文はあとに桜さしだす使ひかな
夕日影町中に飛ぶ胡蝶かな
越後屋にきぬさく音や更衣
猫の子をくんずほぐれつ胡蝶かな
しら魚をふるひ寄せたる四手(よつで)哉
夕すずみよくぞ男に生れけり
かたつぶり酒の肴に這はせけり
蚊柱にゆめのうき橋かゝる也
切られたる夢はまことか蚤の跡
草の戸に我は蓼くふ螢哉
千人が手を欄干や橋すゞみ
夕立にひとり外みる女かな
夕立や田を見めぐりの神ならば
名月や疊のうへに松の影
聲かれて猿の歯白し峰の月
いなづまやきのふは東けふは西
投げられて坊主なりけり辻相撲
武帝には留守とこたえよ秋の風
十五から酒をのみ出てけふの月
闇の夜は吉原ばかり月夜かな
あまがへる芭蕉にのりてそよぎけり
秋の空尾上の杉をはなれたり
傾城の小哥はかなし九月尽
木菟の独わらひや秋の昏(くれ) (けうがる我が旅すがた)
冬来ては案山子のとまる鴉かな
爐開きや汝をよぶは金の事
詩あきんど年を貪る酒債かな
年わすれ劉伯倫はおぶはれて    (劉伯倫は竹林の七賢人の劉伶の事、要するに酔っ払い)
酒ゆえと病を悟る師走かな
あれきけと時雨来る夜の鐘の聲
からびたる三井の仁王や冬木立
此(この)木戸や鎖(じやう)のさゝれて冬の月
我が雪とおもへば軽し笠のうへ
鉾にのる人のきほひも都哉
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 服部嵐雪 (1654-1707)
元日やはれて雀のものがたり
出替りや幼な心に物あはれ
うまず女の雛かしづくぞ哀れなる
竹の子や兒(ちご)の歯ぐきのうつくしき
角力とり並ぶや秋のから錦
真夜中やふりかはりたる天の川
名月や烟這ひゆく水のうへ
黄菊白菊その外はなくもがな
はぜ釣るや水村山廓酒旗の風
凩の吹きゆくうしろすがたかな
ふとん着て寐たる姿や東山
うめ一輪一りんほどのあたたかさ
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 向井去来(1651-1704)
元日や家に譲りの太刀帯(は)かん
鉢たたき来ぬ夜となれば朧なり
うごくとも見えで畑打つ男かな
花守や白き頭をつき合せ
何事ぞ花見る人の長刀
一昨日(おととひ)はあの山こえつ花ざかり
郭公(ほととぎす)なくや雲雀と十文字
うの花の絶間たゝかん闇の門
湖の水まさりけり五月雨
手のうへにかなしく消ゆる螢かな
螢火や吹きとばされて鳰のやみ
石も木も眼にひかる暑さかな
魂棚の奥なつかしや親の顔
いなづまやどの傾城とかり枕
稲妻のかきまぜて行くやみよかな
岩端や爰(ここ)にもひとり月の客
あき風やしら木の弓に弦はらん
雁がねの竿になる時尚さびし
故郷も今はかり寝や渡鳥
鳶の羽もかいつくろひぬ初しぐれ
いそがしや沖の時雨の眞帆片帆
こがらしの地にも落さぬしぐれかな
鴨啼くや弓矢を捨てて十余年
荒磯やはしり馴れたる友千鳥
応々といへどたゝくや雪の門
尾頭の心もとなき海鼠かな
舟にねて荷物の間(あひ)や冬ごもり
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 内藤丈草(1662-1704)
我が事と鯲(どじやう)の逃げし根芹哉
大原や蝶の出でまふ朧月
はるさめやぬけ出たまゝの夜着の穴
木枕の垢や伊吹に残る雪
陽炎や塚より外に住ばかり (芭蕉翁塚にまうでゝ)
鴬や茶の木畠の朝月夜 
時鳥啼くや湖水のさゝ濁り
白雨(ゆふだち)にはしり下るや竹の蟻
雨乞の雨気(あまけ)こはがるかり着哉
稲妻のわれて落つるや山の上
つれのある所へ掃くぞきりぎりす
幾人(いくたり)かしぐれかけぬく勢田の橋
屋根葺の海をふりむく時雨かな
うづくまる薬の下の寒さかな
水底の岩に落つく木の葉かな
淋しさの底ぬけて降るみぞれかな
水底を見て来た顔の子鴨哉
下京を廻(めぐ)りて火燵(こたつ)行脚かな
鷹の目の枯野に居(すわ)るあらしかな
狼の声そろふなり雪のくれ
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 野沢凡兆(?-1714)
灰捨て白梅うるむ垣ねかな
鴬や下駄の歯につく小田の土
木のまたのあでやかなりし柳かな
野馬(かげろふ)に子共あそばす狐哉
鷲の巣の樟の枯枝に日は入ぬ
ある僧の嫌ひし花の都かな
はなちるや伽藍の枢(くるる)おとし行く
渡り懸けて藻の花のぞく流れ哉
五月雨に家ふり捨てなめくじり
剃刀や一夜に金精(さび)て五月雨
ほとゝぎす何もなき野ゝの門構
すずしさや朝草門に荷ひ込む
市中(まちなか)は物のにほひや夏の月
百舌鳥なくや入日さし込む女松原
初潮や鳴門の浪の飛脚舟
物の音ひとりたふるゝ案山子哉
上行くと下くる雲や秋の天(そら)
灰汁(あく)桶の雫やみけりきりぎりす
時雨るゝや黒木つむ屋の窓あかり
禪寺の松の落葉や神無月
門前の小家もあそぶ冬至哉
炭竃に手負の猪の倒れけり
呼びかへす鮒賣見えぬあられ哉
かさなるや雪のある山只の山
念仏より欠(あくび)たふとき霜夜哉
下京や雪つむ上の夜の雨
ながながと川一筋や雪の原
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 中村史邦  (未詳)
蜀魂(ほととぎす)なくや木の間の角櫓(すみやぐら)
 (注)角櫓:城郭の一角にたてられた櫓。
広沢やひとりしぐるる沼太郎
 (注)沼太郎:雁の一種、ひしくい。
長尻の客もたたれし霙哉
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 杉山杉風  (さんぷう)(1647-1730)
馬の頬押しのけつむや菫草
ふり上ぐる鍬の光や春の野ら
がつくりとぬけそむるはやあきの風
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 山本荷兮 (かけい)(1648-1716)
陽炎や取りつきかぬる雪の上
こがらしに二日の月のふきちるか
秋の日やちらちら動く水の上
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 河合曾良  (1649-1710)
かさねとは八重撫子の名成るべし
卯の花をかざしに關の晴着かな
行き行てたふれ伏すとも萩の原
終宵(よもすがら)秋風きくやうらの山
なつかしき奈良の隣の一時雨
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 斉部路通 (1649-1783)
雑煮ぞと引おこされし旅寝かな 
肌のよき石にねむらん花の山
ぼのくぼに雁落かかる霜夜かな
鳥共も寝入つてゐるか余呉の海
いねいねと人にいはれつ年の暮
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 越智越人 (1656-?)
うらやましおもひ切る時猫の恋
鴈がねもしづかに聞けばからびずや
ちるときの心やすさよけしの花
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 服部土芳 (とほう)(1657-1730)
かげろふやほろほろ落つる岸の砂
むめちるや糸の光の日の匂ひ
棹鹿のかさなり臥せる枯野かな
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 坪井杜国(?-1690)
ゆく秋も伊良湖を去らぬかな
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 志太野坡  (1663-1740)
長松が親の名で来る御慶かな
行く雲を寐て居て見るや夏座敷
山伏の火を切りこぼす花野かな
小夜しぐれ隣の臼は挽きやみぬ
夕すずみあぶなき石にのぼりけり
行く雲をねてゐてみるや夏座敷
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 各務支考 (1665-1731)
春雨や枕崩るるうたひ本
船頭の耳の遠さよ桃の花
馬の耳すぼめて寒し梨の花
食堂(じきだう)に雀啼くなり夕時雨
呵(しか)られて次の間へ出る寒さかな
歌書よりも軍書にかなし吉野山
苗代を見てゐる森の烏哉
涼しさや縁より足をぶらさげる
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 森川許六 (きょりく)(1656-1715)
苗代の水にちりうくさくらかな
なの花の中に城あり郡山
清水の上から出たり春の月
十團子(とおだご)も小粒になりぬ秋の風
落雁の声のかさなる夜寒かな
大名の寐間にもねたる寒さ哉
大髭に剃刀の飛ぶさむさかな
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 浪化 (1671-1703)
水鳥の胸に分けゆく桜かな
永き日や太鼓のうらの虻の音
首立て鵜のむれのぼる早瀬哉
夜の雪晴れて薮木の光りかな
水仙や薮の付いたる売屋敷
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 広瀬惟然  (?-1711)
うめの花赤いは赤いはあかいはな
別るるや柿喰ひながら坂の上
更け行くや水田のうへの天の川
水鳥やむかふの岸へつういつい
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 立花北枝 (?-1718)
さびしさや一尺消えてゆくほたる
馬洗ふ川すそ闇き水鶏哉
川音や木槿さく戸はまだ起きず
池の星またはらはらと時雨かな
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 岩田涼菟 (りょうと)(1659-1717)
それも応これも応なり老の春
傾城の畠見たがるすみれかな
鍬さげて叱りに出るや桃の花
凩の一日吹いて居りにけり
唇で冊子かへすやふゆごもり
つかむ手の裏を這たる螢哉
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 河合智月  (1634?-1708以後)
待春や氷にまじるちりあくた
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 奥州 (未詳。元禄頃の遊女)
恋ひ死なば我が塚で鳴け郭公(ほととぎす)
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 斯波園女  (1664−1726)
鼻紙の間にしをるるすみれかな
おうた子に髪なぶらるる暑さ哉
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 中川乙由  (1675-1739)
うき草や今朝はあちらの岸に咲く
諌鼓鳥(かんこどり)我もさびしいか飛んで行く
足高に橋は残りて枯野かな
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 稲津 (いなずぎくう)(1663-1733)
若鮎やうつつ心に石の肌
秋風や鼠のこかす杖の音
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 早野巴人 (はじん)(1676-1742)
はやぶさの地にさす影か風のきく(菊)
初雪や雪にもならで星月夜
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 和田希因(1770頃−1750)  
鴬のあかるき声や竹の奥
我が門(かど)に富士を見ぬ日の寒さかな
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 貴志沾州 (1671-1741)
梅咲いて朝寝の家となりにけり
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 横井也有  (1702-1783)
すがたみにうつる月日や更衣
くさめして見失うたる雲雀かな
雪の橋雪から雪へかけにけり
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 千代女  (1703-1775)
朝顔に釣瓶とられてもらひ水
落鮎や日に日に水のおそろしき
月の夜や石に出て鳴くきりぎりす
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 有井諸九  (1714-1781)
行く春や海を見て居る鴉の子
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 歌川 (かせん・越前三国の遊女長谷川)(1717-1776)
奥底の知れぬ寒さや海の音
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 大島蓼太 (りょうた)(1718-1787)
むつとしてもどれば庭の柳かな 
世の中は三日見ぬ間に桜かな
筆取てむかへば山の笑ひけり
菜の花にのどけき大和河内哉
五月雨やある夜ひそかに松の月
岩鼻の鷲吹はなつ野分かな
我が影の壁にしむ夜やきりぎりす
更くる夜や炭もて炭をくだく音
ともしびを見れば風あり夜の雪
淀舟やこたつの下の水の音
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 炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
はねつくや世ごゝろしらぬ大またげ
 (注)大またげ:大股でまたぐこと。 
やぶ入の寝るやひとりの親の側
色々に谷のこたへる雪解かな
帰る雁きかぬ夜がちになりにけり
耕すやむかし右京の土の艶
ふりむけば灯とぼす関や夕霞
ふらこゝの会釈こぼるゝや高みより
山路きてむかふ城下や凧の数
うつす手に光る螢や指のまた
螢火や岸にしづまる夜の水
行く女袷(あはせ)着なすや憎きまで
蚊屋くゞる女は髪に罪深し
飛石にとかぎの光る暑かな
病んで死ぬ人を感ずる暑かな
初恋や燈籠によする顔と顔
脱ぎすてゝ角力になりぬ草の上
身の秋やあつ燗好む胸赤し
行く程に都の塔や秋の空
(行く先に都の塔や秋の空)
浅川の水も吹き散る野分かな
行く秋や抱けば身に添ふ膝頭
寝よといふ寝ざめの夫や小夜砧
冬枯や雀のありく戸樋(とひ)の中
盗人に鐘つく寺や冬木立
鰒(ふぐ)売に喰ふべき顔と見られけり
初雪や酒の意趣ある人の妹(いも)
木がらしの箱根に澄や伊豆の海
寒月や我ひとり行橋の音
うつくしき日和になりぬ雪のうへ
空遠く声あはせゆく小鳥かな    
名月や君かねてより寝ぬ病(やまひ)
行きゆきてこころ後(おく)るる枯野かな

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 三宅蕭山  (しょうざん)(1718-1801)
短夜や未だ濡色の洗ひ髪
抱き下す君が軽みや月見船
暗がりの鰈に余寒の光かな
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 建部涼袋  (りょうたい)(1719-1774)
うぐひすや土のこぼるる岸に啼く
涼しさや舳(とも)へながるゝ山の数
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 堀麦水  (1718-1783)
蝶々や昼は朱雀の道淋し
椿落ちて一僧笑ひ過ぎ行きぬ
夕がほや物をかり合ふ壁のやれ
静けさや蓮の実の飛ぶあまたたび
よわよわと日の行きとどく枯野かな
秋の螢露より薄く光りけり
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 高桑闌更  (らんこう)(1726-1798)
正月や三日過ぐれば人古し
川船やひばり鳴きたつ右ひだり
白牡丹ただ一輪の盛りかな
鵜の面(かほ)に川波かかる火影哉
大木を見てもどりけり夏の山
秋立つや店にころびし土人形
枯蘆の日に日に折れて流れけり
星きらきら氷となれるみをつくし
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 加藤暁台  (きょうたい)(1732-1792)
雪解や深山曇りを啼く烏
日の春のちまたは風の光り哉
火ともせばうら梅がちに見ゆるなり
日くれたり三井寺下る春のひと
海の音一日遠き小春かな
蚊柱や棗(なつめ)の花の散るあたり
濤(なみ)暑し石に怒れるひびきあり
九月盡遥かに能登の岬かな
木の葉たく烟のうへのおちばかな
暁や鯨の吼ゆるしもの海
元旦やくらきより人あらはるる
菫つめばちひさき春のこころかな
  追悼句
夜ざくらにむかし泣よるひとり哉 
としのくれ鏡の中にすわりけり
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 三浦樗良 (ちょら)(1729-1780)
山寺や誰も参らぬ涅槃像
見かへればうしろを覆ふ桜かな
さくら散る日さへゆふべと成にけり
あらしふく草の中よりけふの月
かりがねの重なり落つる山辺かな
寒の月川風岩をけづるかな
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 高井几菫 (きとう)(1741-1789)
絵草紙(ざうし)に鎮(しづ)おく店や春の風
裏店(うらだな)や箪笥の上の雛まつり
白藤や猶さかのぼる淵の鮎
湖の水かたぶけて田植かな
短夜や空とわかるゝ海の色
花火尽きて美人は酒に身を投げけむ
やはらかに人分け行くや勝角力
冬木だち月骨髄に入る夜哉
酔うて寝た日のかずかずや古暦
青海苔や石の窪みの忘れ汐
おちぶれて関寺謡ふ頭巾哉
かなしさに魚喰ふ秋のゆふべ哉
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 黒柳召波  (1727-1771)
春たつや静かに鶴の一歩より
大原や木の芽すり行く牛の頬
少年の犬走らすや夏の月
傘(からかさ)の上は月夜のしぐれかな
憂きことを海月に語る海鼠かな
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 吉分大魯  (たいろ)(1730-1778)
海は帆に埋れて春の夕かな
牡丹折りし父の怒りぞなつかしき
悪僧の天窓(あたま)冷せし清水哉
我にあまる罪や妻子を蚊の喰らふ
初時雨真昼の道をぬらしけり
ともし火に氷れる筆を焦しけり
筍やひとり弓射る屋敷守     
思い出て庭掃く春の夕べかな

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 加舎白雄(1738-1791)
二またになりて霞める野川かな
春の雪しきりに降りて止みにけり
はる風や吹かれそめたる水すまし
海はれて春雨けぶる林かな
美しや春は白魚かいわり菜
山焼やほのかにたてる一ツ鹿
夕風や野川を蝶の越えしより
美しや春は白魚かひわり菜
人恋し灯ともしころをさくらちる
たんぽゝに東近江の日和かな
夕汐や柳がくれに魚わかつ
さうぶ湯やさうぶ寄りくる乳のあたり
心こめて筆試みることしかな
旅人の窓よりのぞくひひなかな
陽炎の眼(まなこ)にしみるばかりなり(兄の死に際し、墓前で)
あかつきや人はしらずも桃の露
たかきよりすずしき桑の戦ぎかな
物がたり読みさして見る藤の花
春の日を音せで暮るる簾かな
子規(ほととぎす)なくや夜明けの海がなる
園くらき夜を静かなる牡丹かな
めくら子の端居さびしき木槿かな
更衣簾のほつれそれもよし
鵜の觜に魚とりなほす早瀬かな
すずしさや蔵の間より向嶋
うつくしや榎の花のちる清水
たそがれや稲田の螽相はじく
猪をになひ行く野や花薄
鶴おりて人に見らるる秋の暮
大寺や白湯のにえたつ秋の暮
行く雲や秋のゆふべのものわすれ
行く秋や情に落ち入る方丈記
行く秋の草にかくるる流かな
くらき夜はくらきかぎりの寒さかな
木枯や市に業(たづき)の琴をきく
鶏の嘴(はし)に氷こぼるる菜屑かな
捨てられぬものはこゝろよ冬籠
をかしげに燃へて夜深し榾の節
金屏に旅して冬を籠る夜ぞ
寒月や石きり山のいしぼとけ
あはあはと一里は雪の峠哉
罌粟の花十日たちたり散りにけり
名月や眼ふさげば海と山
たぐひなきひとり男よ冬籠
冬近き日のあたりけり鳶の腹
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 松岡青蘿 (せいら)(1740-1791)
春たつや梢の雪にひかりさす
落ちつみし椿のうへを春の雨
はる雨の赤兀(あかはげ)山に降りくれぬ
朝風呂にうぐひす聞くや二日酔
雉子啼いて跡は鍬うつ光かな
蝶ひとつ竹に移るや衣がへ
すゞしさや惣身わするゝ水の音
角あげて牛人を見る夏野かな
蘭の香も閑を破るに似たりけり
一さかり萩くれなゐの秋の風
入口に人影さしぬ秋の暮
(戸口より人影さしぬ秋の暮)
荒海に人魚浮けり寒の月
(荒海に人魚浮めり寒の月)
灯火のすはりて氷る霜夜かな
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 蝶夢 (1732-1795)
うづみ火や壁に翁の影ぼふし
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 大伴大江丸 (1722-1805)
雁はまだ落ちついてゐるにお帰りか
秋来ぬと目にさや豆のふとり哉
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 吉川五明 (1731-1803)
流れ来て氷を砕く氷かな
春の夜や心の隅に恋つくる
朧夜や氷離るる岸の音
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 井上士朗 (1742-1812)
たうたうと瀧の落ちこむ茂り哉
大蟻のたたみをありく暑さ哉
こがらしや日に日に鴛鴦(をし)のうつくしき
足軽のかたまつて行く寒さかな
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 夏目成美 (1749-1816)
白牡丹崩れんとして二日見る
朧夜や吉次を泊めし椀の音
撫子のふしぶしにさすゆふ日かな
淋しさにつけて飯くふ宵の秋
のちの月葡萄に核(さね)のくもりかな
魚くふて口なまぐさし昼の雪
花鳥をおもへば夢の一字かな
銭臭き人にあふ夜はおぼろなり
朝の雪おなじ文こす友ふたり
橋一つ越す間を春の寒さかな
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 田上菊舎 (1753-1826)
山門を出れば日本ぞ茶摘うた
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 鈴木道彦 (1757-1819)
ゆさゆさと桜もてくる月夜かな
家ふたつ戸の口見えて秋の山
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 建部巣兆 (そうちょう)(1761-1814)
梅散るやなにはの夜の道具市
菜の花や小窓の内にかぐや姫
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 酒井抱一 (1761-1828)
星一つ残して落つる花火かな
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 榎本星布 (せいふ)(1732-1814)
ゆく春や蓬が中の人の骨
海にすむ魚の如(ごと)身を月涼し
池の鴨空なる声をさそふかな
蝶老てたましひ菊にあそぶ哉
散花のしたにめでたき髑髏哉
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 小林一茶  (1763-1827)
  《春》
三文が霞見にけり遠眼鏡
雲に鳥人間海にあそぶ日ぞ
窓明けて蝶を見送る野原哉
夕桜家ある人はとくかえる
初蝶のいきほひ猛(まう)に見ゆる哉
春の日や水さへあれば暮残り
春立つや四十三年人の飯
うら門のひとりでに明く日永哉
古郷や餅につき込む春の雪
野火つけてはらばうて見る男哉
夕燕我には翌(あす)のあてはなき
花さくや目を縫はれたる鳥の鳴く
白魚のどつと生るゝおぼろ哉
雪とけてクリクリしたる月夜かな
夕ざくらけふも昔に成にけり
かう活きて居るも不思議ぞ花の陰
初空へさし出す獅子の首(かしら)哉
藤さくや木辻の君が夕粧(けは)ひ
ゆさゆさと春が行くぞよのべの草
うつくしや雲雀の鳴きし迹(あと)の空
細長い春風吹くや女坂
雉子鳴くや関八州を一呑に
夕不二に尻を並べてなく蛙
さく花の中にうごめく衆生かな
なの花のとつぱずれ也ふじの山
ゆうぜんとして山を見る蛙かな
春雨や喰はれ残りの鴨が鳴く
春風や鼠のなめる角田川
雪とけて村一ぱいの子ども哉
我里はどうかすんでもいびつ也
此のやうな末世を桜だらけかな
我と来て遊ぶや親のない雀
おらが世やそこらの草も餅になる
鶏の仲間割れして日永哉
痩蛙まけるな一茶是(これ)にあり
春雨や薮に吹かるゝ捨手紙
加賀どのゝ御先をついと雉(きぎす)哉
出る月や壬生狂言の指の先
鼻紙を敷て居(すわ)れば菫哉
目出度さもちう位なりおらが春
 (注)「ちう位」:中位、中ほど。信濃方言では「いい加減、どっちつかず」。
関守の灸点はやる梅の花
雀の子そこのけそこのけ御馬が通る
春風や侍二人犬の供
迹供(あとども)は霞引きけり加賀の守
鶏の坐敷を歩く日永かな
ことしから丸儲けぞよ娑婆遊び
年寄の腰や花見の迷子札
春雨や御殿女中の買ぐらひ
花の影寝まじ未来が恐ろしき
元日や上ゝ吉の浅黄空
下下に生まれて桜桜哉
春風の国にあやかれおろしあ船
春立(たつ)や菰(こも)もかぶらず五十年
穀(ごく)つぶし桜の下にくらしけり
金の糞しそうな犬ぞ花の陰
祝ひ日や白い僧達白い蝶
天に雲雀人間海に遊ぶ日ぞ
  《夏》
時鳥我が身ばかりに振る雨か
通し給へ蚊蝿の如き僧一人
 (注)「通し給へ」:関所の役人への呼びかけ。
しづかさや湖水の底の雲のみね
塔ばかり見えて東寺は夏木立
夏の夜に風呂敷かぶる旅寝かな
青梅や餓鬼大将が肌ぬいで
もたいなや昼寝して聞く田植唄
父ありて明ぼの見たし青田原
空腹(すきばら)に雷ひゞく夏野哉
五月雨や二階住居(ずまひ)の草の花
夏山や一足づゝに海見ゆる
行々しどこが葛西の行溜り
かんこ鳥しなのゝ桜咲きにけり
手の皺が歩み悪(にく)いか初螢
古郷やよるも障るも茨(ばら)の花
大空の見事に暮る暑哉
大の字に寝て涼しさよ淋しさよ
下々も下々下々の下国の涼しさよ
短夜や草葉の陰の七カ村
投げ出した足の先なり雲の峰
蚊柱の穴から見ゆる都哉
一番に乙鳥(つばめ)のくゞるちのわ哉
ろふそくでたばこ吸ひけり時鳥
涼風(すずかぜ)の曲りくねつて来たりけり
りんりんと凧上りけり青田原
湯上りの尻にべつたり菖蒲哉
武士(さむらひ)に蝿を追する御馬哉
大門や涼がてらの草むしり
としとへば片手出す子や更衣
ざぶざぶと白壁洗ふわか葉哉
蝉なくやつくづく赤い風車
戸口から青水な月(あをみなづき)の月夜かな
 (注)「青水な月」:水無月(陰暦六月)に青を冠している。
大螢ゆらりゆらりと通りけり
夕立や樹下石上(せきじやう)の小役人
まかり出たるは此薮の蟇にて候
蟻の道雲の峰よりつづきけり
孤(みなしご)の我は光らぬ螢かな
空腹(すきばら)に雷ひびく夏野哉
あさら井や小魚と遊ぶ心太
やれ打な蝿が手をすり足をする
行々し大河はしんと流れけり
湖水から出現したり雲の峯
僧になる子のうつくしやけしの花
けし提げて喧嘩の中を通りけり
やけ土のほかりほかりや蚤さはぐ
蝸牛そろそろ登れ富士の山
穀値段どかどか下るあつさ哉
犬どもが蛍まぶれに寐たりけり
夏山の膏(あぶら)ぎつたる月よ哉
はいかいの地獄はそこか閑古鳥
斯(か)う居るも皆がい骨ぞ夕涼
  《秋》
短夜の鹿の(かほ)出す垣ね哉 
秋の夜や旅の男の針仕事
小便の身ぶるい笑へきりぎりす
夕日影町一ぱいのとんぼ哉
ひとりなは我星ならん天[の]川
 (注)「ひとりなは」:独りなのは。
馬の子の故郷はなるゝ秋の雨
日の暮の背中淋しき紅葉かな
夕月や流れ残りのきりぎりす
木つゝきの死ネトテ敲く柱哉
白露に気の付年となりにけり
露の世の露の中にてけんくわ哉
秋の雨小さき角力通りけり
又人にかけ抜かれけり秋の暮
秋風や壁のヘマムシヨ入道
有明や浅間の霧が膳をはふ
けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ
うつくしや障子の穴の天の川
えいやつと活た所が秋の暮
長き夜や心の鬼が身を責める
野ばくちや銭の中なるきりぎりす
青空に指で字をかく秋の暮
若犬が蜻蛉返りの花野かな
猫の子がちよいと押へる落葉かな
しなのぢやそばの白さもぞつとする
秋風やむしりたがりし赤い花 (さと女三十五日墓) 
踊から直(すぐ)に朝草かりにけり
深川や蠣(かき)がら山の秋の月
六十年踊る夜もなく過しけり
散る芒寒くなるのが目にみゆる
 (注)初出:散る芒寒く成つたが目にみゆる 
日ぐらしや急に明るき湖(うみ)の方
露の世は露の世ながらさりながら
秋風やあれも昔の美少年
山畠やそばの白さもぞつとする
(しなのぢやそばの白さもぞつとする)
秋の夜やしやうじの穴が笛を吹
我星はどこに旅寝や天の川
夕暮や鬼の出さうな秋の雲
秋風にあなた任せの小蝶哉
露の世の露の中にてけんくわ哉
今迄は踏れて居たに花野かな
送り火や今に我等もあの通り
  《冬》
寒き夜や我が身をわれが不寝番(ねずのばん)
山寺や雪の底なる鐘の声
思ふ人の側へ割込む巨燵かな
大根引一本づゝに雲を見る
井戸にさへ錠のかゝりし寒哉
木がらしや地びたに暮るゝ辻諷ひ
 (注)「地びた」:地べた。
初雪や古郷見ゆる壁の穴
木がらしやこんにやく桶の星月夜
耕さぬ罪もいくばく年の暮
心からしなのゝ雪に降られけり
田の雁や里の人数(にんず)はけふもへる
寒月や喰つきさうな鬼瓦
是がまあつひの栖か雪五尺
雪ちるやきのふは見えぬ借家札
がい骨の笛吹(ふく)やうなかれの哉
うまさうな雪がふうはりふはり哉
大根引大根で道を教へけり
うら壁やしがみ付いたる貧乏雪
猫の子がちよいと押へるおち葉哉
木がらしや廿四文の遊女小屋
椋鳥と人に呼ばるゝ寒さ哉
雪ちるやおどけも云へぬ信濃空
ともかくもあなた任せのとしの暮
づぶ濡れの大名を見る巨燵哉
人誹(そし)る会が立つなり冬籠
手拭のねぢつたまゝの氷哉
我好(すき)て我する旅の寒(さむさ)哉
  《雑》
月花や四十九年のむだ歩き
 (注)月花:季感はない。風雅を代表する語として用いている。
亡き母や海見る度に見る度に
                           目次へ
 成田蒼 (そうきゅう)(1761-1842)
江のひかり柱に来たりけさのあき
鈴鴨の虚空に消ゆる日和哉
いつ暮れて水田の上の春の月
                           目次へ
 田川鳳朗 (ほうろう)(1761-1842)
暮遅き加茂の川添ひ下りけり
大空をせましと匂ふ初日影
                           目次へ
 桜井梅室 (ばいしつ)(1769-1852)
元日や人の妻子の美しき
つばき落ち鶏鳴き椿また落ちる
門ありて国分寺はなし草の花
ふゆの夜や針うしなうておそろしき
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********** ヲ上記以外の俳人・俳句 ********** (とりあえずこの項目を設けますが、いつか全面的な改訂をしたいと思います。)                            目次へ  浜田洒堂(?-1737) 人に似て猿も手を組む秋の風                            目次へ  岡田野水(1658-1743) くつさめの跡しづかなり夏の山                            目次へ  小川秋色(1669-1725) 雉子の尾のやさしくさはる菫かな 井戸ばたの桜あぶなし酒の酔(ゑひ)                            目次へ  松木淡々(1674-1761) 暁や灰の中よりきりぎりす                            目次へ  田河移竹(1710-60) 霧ながら大きな町に出でにけり                            目次へ  上田無腸(秋成)(1734-1809) 桜々散つて佳人の夢に入る                            目次へ  藤守素檗 (そばく)(1758-1821) 露の玉ふたつにわれんばかりなり                            目次へ  常世田長翠(ちようすい)(?-1813) はるのゆき女の裾にふりゆきる                            目次へ  鶴田卓池(たくち)(1768-1845) 春の雪ゆきの遠山見えて降る                            目次へ  谷川護物(ごぶつ)(1771-1844) 鮟鱇のさかさまに日は闌(た)けにけり                            目次へ  『古句を観る』(柴田宵曲)より (元禄期の句 )  《新年》 蓬莱や日のさしかゝる枕もと         釣壺 元日や一の秘蔵の無分別           木因  (注)無分別:分別を離れた風雅の天地。 雑煮ぞと引おこされし旅寝かな        路通(路通の項目にあり) 昼過ぎにたゝきて見たる薺かな        不玉  《春》 桃色に雲の入日やいかのぼり         其木 出かはりや猫抱あげていとまごひ       慈竹 行過て女見返す汐干かな           露桂 黙礼の跡見かへるや朧月           柳之 吹上る埃(ほこり)のなかの雲雀かな     星笑 いかのぼり見事にあがるあほうかな      林紅 ちかよりて見れば畑打つ女かな        枳邑 玉椿落て浮けり水の上            諷竹 寝はぐれしあけぼの白し梅の花        無笛 春の野も寂しや暮の馬一つ          由水 梅が香や鶏寝たる地のくぼみ         如行 春雨や障子を破る猫の顔           十丈 早梅や奥で機織長屋門            吏門 乳呑子の耳の早さや雉子の声         りん女  《夏》 湯殿出る若葉の上の月夜かな         李千 美しき人の帯せぬ牡丹かな          四睡 すてゝある石臼薄し桐の華          鶴声 撫て見る石の暑さや星の影          除風 供舟にまだ日のあたる涼かな         花明 涼風や障子にのこる指の穴          鶴声(おさなき人の早世に申しつかわす) 白雨(ゆうだち)や洞の中なる人の声     畏計 えり垢の春をたゝむや更衣          洞池 しら壁や若葉のひまの薄曇          葉圃 ほめられて小歌やめけり夕涼         微房 夏旅やむかふから来る牛の息         方山 鮓食て先(まず)おちつくや祭顔       蒙野 笠はみは哥にかたぶく田植かな        松葉 ほとゝぎす啼や子共のかけて来る       紫道 裸身に蚊屋の布目の月夜かな         魚日 山ごしの豆麩(とうふ)も遅し諌鼓鳥(かんこどり) 怒風 みじか夜を皆風呂敷に鼾かな         除風(浪花より船にのりて) 葉桜のうへに赤しや塔二重          唯人 やね葺(ふき)が我屋ね葺(ふく)や夏の月  夕兆  (注)「我(わが)」:自分の家の。  《秋》 山領は法師ばかりの相撲かな         遅望 蝿ひとつねられぬ秋の昼寐かな        松覚 一すじの蜘蛛のゐ白き月夜かな        独友 耳かきもつめたくなりぬ秋の風        地角 澄み切て鳶舞ふ空や秋うらゝ         正己 何をする家とも見えず壁に蔦         其由 秋の日や釣りする人の罔両(かげぼうし)   雲水 いなづまにはつと消えたる行燈かな      窓竹 いわし寄る波の赤さや海の月         桃首 しら菊をのぞけば露のひかりかな       春曙 朝顔よ一番馬の鈴の音            北空 芭蕉葉を尺取むしの歩みかな         末路 名月や壁に酒のむ影法師           半綾 化け兼(かね)る狐とびゆく野分かな     空能 秋ふかし人切り土堤の草の花         風国 二階からたばこの煙秋のくれ         除風  《冬》 水鳥のかたまりかぬる時雨かな        良長 火燵(こたつ)からおもへば遠し硯紙     沙明 前髪に雪降りかゝる鷹野かな         吏明 餅搗(もちつき)や捨湯流るゝ薄氷      晩柳 時雨るゝや古き軒端の唐辛          炉柴 こほる夜や焼火(たきび)に向かふ人の顔   岱水  天井に取付(とりつく)蝿や冬籠       柴道 鉄砲の水田になりて里の冬          廬文
◆ 目次に戻る ◆



 『日本古典文学大系 近世俳句俳文集』(岩波書店)と『日本古典文学全集 近世俳句俳文集』(小学館)を出発点として、『名家俳句集』(博文館)、『名家俳句集』(有朋堂書店)、『俳句大観』(明治書院)、『日本名句集成』(學燈社)、『新日本古典文学大系』(岩波書店・初期俳諧集、芭蕉七部集他)、『蕉門名家句集』(岩波文庫、堀切実編注)、『古典俳文学大系』(集英社)や『頴原退蔵著作集』(中央公論社)、蝸牛俳句文庫など、その他数多くの俳書を使用(例えば、『古句を観る』(柴田宵曲 岩波文庫)、『白雄の秀句』(矢島渚男 講談社学術文庫)、『俳諧志』(加藤郁乎 潮出版社))。
 なお、小林一茶については、上記の『日本古典文学全集 近世俳句俳文集』(小学館)、『俳句大観』(明治書院)、『日本名句集成』(學燈社)とともに、『新訂 一茶俳句集』(丸谷一彦 岩波文庫)、『日本古典文学大系 蕪村集 一茶集』(岩波書店)、『一茶俳句集』(荻原井泉水 岩波文庫)、『古典俳文学大系 一茶集』(集英社)、『日本の古典 蕪村・良寛・一茶』(河出書房新社)、その他数多くの一茶集、一茶論などを使用。もう少し増やして一茶を独立させることも考えています。

(開始1996.9.16)


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