蕪村句集




 與謝蕪村(1716-1783)



いわゆる新発見の句(2015.12.8.)
 傘(からかさ)も化(ばけ)て目のある月夜哉           (「夜半亭蕪村句集」)
 我焼(やき)し野に驚(おどろく)や屮(くさ)の花
 蜻蛉(かげらう)や眼鏡をかけて飛歩行(とびあるき)
 さくら咲いて宇宙遠し山のかい 
    (「宇宙」は当時全空間全時間(時間も内包している)を指す)
 一輪の月投入れよ谷の水


 春

ほうらいの山まつりせむ老の春       (『蕪村句集』) 日の光今朝は鰯のかしらより 三椀の雑煮かゆるや長者ぶり 水にちりて花なくなりぬ岸の梅 うぐひすのあちこちとするや小家がち 鴬の声遠き日も暮にけり うぐひすのそさうがましき初音かな うぐひすや家内揃ふて飯時分 うぐひすの啼(なく)やちいさき口明(あい)て 梅ちりてさびしく成(なり)しやなぎ哉 二もとの梅に遅速(ちそく)を愛す哉 白梅や墨芳(かんば)しき鴻臚館 しら梅や誰(たが)むかしより垣の外 白梅や北野の茶屋にすまひ取 うめ散や螺鈿こぼるる卓(しよく)の上 梅咲て帯買ふ室(むろ)の遊女かな 梅咲ぬどれがむめやらうめじやら 梅遠近(をちこち)南(みんなみ)すべく北すべく なには女や京を寒がる御忌詣(ぎよきまうで) やぶ入の夢や小豆の煮るうち 薮いりやよそ目ながらの愛宕山 七くさやはかまの紐の片結 これきりに径(こみち)尽たり芹の中 古寺やほうろく捨(すつ)る芹のなか 筋違(すぢかひ)にふとん敷きたり宵の春 肘白き僧のかり寝や宵の春 春月や印金堂の木間より 折釘に烏帽子かけたり春の宿 公達に狐化たり宵の春 女倶して内裏拝まんおぼろ月 よき人を宿す小家や朧月 さしぬきを足でぬぐ夜や朧月 草霞み水に声なき日ぐれ哉 指南車を胡地に引去ル霞哉 高麗舟のよらで過ゆく霞かな 橋なくて日暮れんとする春の水 春水や四条五条の橋の下 足よはのわたりて濁るはるの水 春雨や人住ミて煙(けぶり)壁を洩る 物種の袋ぬらしつ春のあめ 春雨や小磯の小貝ぬるるほど 春雨やもの書ぬ身のあはれなる ぬなは生(お)ふ池の水かさや春の雨 春雨やもの書ぬ身のあはれなる はるさめや暮なんとしてけふも有 春雨やものがたりゆく簑と傘 初午や物種うりに日のあたる 静(しづけ)さに湛えて水澄たにしかな 雁行て門田も遠くおもはるる 陽炎や名もしらぬ虫の白き飛ぶ かげろふや簣(あじか)に土をめづる人 畑うつやうごかぬ雲もなくなりぬ はた打よこちの在所の鐘が鳴(なる) 畑打や木の間の寺の鐘供養 春雨の中におぼろの清水哉 むくと起て雉追ふ犬や宝でら 畑打や木間の寺の鐘供養 妹が垣根さみせん草の花咲ぬ 紅梅の落花燃らむ馬の糞 きじ啼や草の武蔵の八平氏 山鳥の尾をふむ春の入日哉 遅キ日や雉子の下りゐる橋の上 遅き日のつもりて遠きむかしかな 春の海終日(ひねもす)のたりのたり哉 畠うつや鳥さへ啼ぬ山かげに 大津絵に糞落しゆく燕かな 大和路の宮もわら家もつばめ哉 片町にさらさ染(そむ)るや春の風 のうれんに東風(こち)吹いせの出店哉 苗代の色紙にあそぶかわづかな 日は日くれよ夜は夜明ケよと啼蛙 連哥(れんが)してもどる夜鳥羽の蛙哉 うつつなきつまみごころの胡蝶哉 暁の雨やすぐろの薄はら よもすがら音なき雨や種俵 しののめに小雨降出す焼野かな 山吹や井出を流るる鉋屑 居(すわ)りたる舟を上がればすみれ哉 骨(こつ)拾ふ人にしたしき菫かな 近道へ出てうれし野の躑躅かな 箱を出る(かほ)わすれめや雛二対 喰ふて寝て牛にならばや桃の花 商人(あきんど)を吼(ほゆ)る犬ありももの花 さくらより桃にしたしき小家哉 巾(いかのぼり)きのふの空のありどころ やぶいりのまたいで過ぬ巾(いか)の糸   旅人の鼻まだ寒し初ざくら みよし野のちか道寒し山桜 海手より日は照つけて山ざくら 花に暮て我家遠き野道かな 花ちるやおもたき笈(おひ)のうしろより 花の香や嵯峨のともし火消る時 傾城は後の世かけて花見かな 花を踏し草履も見えて朝寝哉 鴬のたまたま啼や花の山 桜狩美人の腹や減却す にほひある衣(きぬ)も畳まず春の暮 誰ためのひくき枕ぞはるのくれ 閉帳の錦たれたり春の夕(くれ) うたた寝のさむれば春の日くれたり 春の夕(くれ)たえなむとする香(かう)をつぐ 花ちりて木間の寺と成にけり 苗代や鞍馬の桜ちりにけり 甲斐がねに雲こそかかれ梨の花 梨の花月に書(ふ)ミよむ女あり 菜の花や月は東に日は西に 菜の花や鯨もよらず海暮ぬ ゆく春や逡巡として遅ざくら 行春や撰者をうらむ哥の主 けふのみの春をあるひて仕舞けり ゆく春や白き花見ゆ垣のひま   行春やむらさきさむる筑羽山(筑波山) ゆく春や横河へのぼるいもの神 春惜しむ宿やあふみの置火燵 春をしむ人や榎にかくれけり        (『蕪村遺稿』) 不二颪(おろし)十三州のやなぎかな 鴬の枝ふみはづすはつねかな おぼろ月大河をのぼる御舟(ぎよしう)かな さくら散苗代水や星月夜 ふためいて金の間を出る燕かな 菜の花や油乏しき小家がち なのはなや魔爺(まや)を下れば日のくるる ゆく春やおもたき琵琶の抱心 なの花や昼一しきり海の音 雉子うちてもどる家路の日は高し 鴬に終日(ひねもす)遠し畑の人 池と川とひとつになりぬ春の雨 ゆくはるや同車の君のささめごと  (春雨や同車の君がささめごと、と露石本増補句にある。田辺聖子はこの方を好ましいと書いている。) 春雨の中を流るる大河かな さびしさに花さきぬめり山ざくら 大門(おおもん)のおもき扉や春のくれ 遅き日や谺聞(きこゆ)京の隅 春風のつまかへしたり春曙抄 小舟にて僧都送るや春の水 春の水すみれつばなをぬらし行 昼舟に狂女のせたり春の水 鴬の啼やあちらむきこちら向 春の夜や狐の誘ふ上童(うへわらは) 大原やつつじが中に蔵建(たて)て 朝日さす弓師が見せや福寿艸 釣鐘にとまりて眠る胡てふ哉 椿落て昨日の雨をこぼしけり  (旧来は「遺稿」扱い。最近の版本では『蕪村遺稿』に見えず(露石本増補句にある)と省れている。味のある句で残すことにした。) 古井戸のくらきに落る椿かな        (「落日菴句集」) 春の夜や盥をこぼす町外れ 菜の花や和泉河内へ小商(こあきなひ) 藤の茶屋あやしき夫婦(めをと)休けり 椿折(をり)てきのふの雨をこぼしけり 古庭に鴬啼きぬ日もすがら         (『歳旦帖』) 罷出たものは物ぐさ太郎月         (「ふたりづれ」) 燭の火を燭にうつすや春の夕        (「新五子稿」) およぐ時よるべ啼き様の蛙かな 春の水山なき国を流れけり         (「俳諧新選」) 春雨やゆるい下駄貸す奈良の宿       (「はるのあけぼの」) しら梅に明(あく)る夜ばかりとなりにけり (「から檜葉」) 我帰る路いく筋ぞ春の艸          (自画賛) 我影をうしろへ春の行衛(ゆくへ)かな   (自画賛) 春の暮家路に遠き人ばかり         (耳たむし)                         タイトルへ

 夏

絹着せぬ家中(かちゆう)ゆゆしき更衣   (『蕪村句集』) 辻駕によき人のせつころもがへ       大兵(たいひやう)の廿(はた)チあまりや更衣 更衣野路の人はつかに白し 痩脛(やせずね)の毛に微風あり更衣 御手討の夫婦(めをと)なりしを更衣 鞘走る友切丸やほととぎす ほととぎす平安城を筋違(すぢかひ)に 子規(ほととぎす)柩をつかむ雲間より 岩倉の狂女恋せよ子規 わするなよほどは雲助ほととぎす 牡丹散(ちり)て打かさなりぬ二三片 閻王の口や牡丹を吐かんとす 寂(せき)として客の絶間の牡丹哉 地車のとどろとひびく牡丹かな ちりて後おもかげにたつぼたん哉 牡丹切(きつ)て気のおとろひし夕(ゆふべ)かな 山蟻のあからさま也白牡丹 山人は人也かんこ鳥は鳥なりけり   かきつばたべたりと鳶のたれてける 鮎くれてよらで過行夜半の門 みじか夜や毛むしの上に露の玉 短夜や同心衆の川手水 短夜や枕にちかき銀屏風 短夜や芦間流るる蟹の泡 みじか夜や二尺落ゆく大井川 短夜や浪うち際の捨篝 みじか夜やいとま給る白拍子 みじか夜や小見世(こみせ)明たる町はづれ 来て見れば夕の桜実となりぬ 実ざくらや死のこりたる菴(あん)の主 三井寺や日は午(ご)にせまる若楓 不二ひとつうづみ残してわかばかな 絶頂の城たのもしき若葉かな 山に添ふて小舟漕ゆく若ば哉 蛇(だ)を載(きつ)てわたる谷路の若葉哉 蚊屋の内にほたる放してアア楽や 古井戸や蚊に飛ぶ魚の音くらし 蚊の声す忍冬(にんどう)の花の散ルたびに 蚊屋つりて翠微作らん家の内     若竹や橋本の遊女ありやなしや 若竹や夕日の嵯峨と成にけり 旅芝居穂麦がもとの鏡たて 狐火やいづこ河内の麦畠 夏河を越すうれしさよ手に草履 鮒ずしや彦根が城に雲かかる 花いばら故郷の路に似たる哉 路たえて香にせまり咲いばらかな 愁ひつつ岡にのぼれば花いばら 青梅に眉あつめたる美人かな かはほりやむかひの女房こちを見る 夕風や水青鷺の脛(はぎ)をうつ 夏山や通ひなれたる若狭人 採蓴(さいじゅん)を諷(うた)ふ彦根のそうふ(※(「にんべん+倉」、夫)哉 さみだれや大河を前に家二軒 さみだれや仏の花を捨に出る 水桶にうなづきあふや瓜茄子 いづこより礫うちけむ夏木立 おろし置(おく)笈(おひ)に地震(ナエフル)なつ野哉 行々(ゆきゆき)てここに行々(ゆきゆく)夏野かな 酒十駄ゆりもて行や夏こだち おろし置笈に地震(なへふる)なつ野哉 行行(ゆきゆき)てここに行行夏野かな 離別(さら)れたる身を蹈込(ふんごん)で田植哉 鯰得て帰る田植の男かな 狩衣の袖のうら這ふほたる哉 学問は尻からぬけるほたる哉 蝮(うはばみ)の鼾も合歓の葉陰哉 石工(いしきり)の鑿(のみ)冷したる清水かな 二人してむすべば濁る清水哉 草いきれ人死居ると札の立 河骨の二もとさくや雨の中 ぬけがけの浅瀬わたるや夏の月     河童(かはたろ)の恋する宿や夏の月 雷に小屋は焼れて瓜の花 かけ香や唖の娘のひととなり 絵団(ゑうちは)のそれも清十郎にお夏かな 祇園会や真葛原(まくずがはら)の風かほる 涼しさや鐘をはなるるかねの声 川狩や帰去来といふ声す也 夕だちや草葉をつかむむら雀 飛蟻(はあり)とぶや富士の裾野の小家より 日帰りの兀(はげ)山越(こゆ)るあつさ哉 端居して妻子を避(さく)る暑かな ところてん逆(さか)しまに銀河三千尺 薫風やともしたてかねついつくしま 裸身(はだかみ)に神うつりませ夏神楽 昼がほや町に成(なり)行(ゆく)杭の数  (『蕪村遺稿』) 飛のりの戻り飛脚や雲の峰 学びする机のうへの蚊遣かな 動く葉もなくておそろし夏木立 五月雨や美豆(みづ)の寐覚の小家がち (さみだれや美豆の小家の寝覚がち 「落日菴句集」) 二十五のあかつき起きや衣更 衣がへ人も五尺のからだ哉     見わたせば蒼生(おをひとくさ)よ田植時  (注)蒼生:人民 みじか夜の闇より出(いで)て大ゐ河 さみだれや名もなき川のおそろしき  麦刈て遠山見せよ窓の前       石工(いしきり)の飛火流るる清水哉 目にうれし恋君の扇真白なる みじか夜や浅井に柿の花を汲(くむ) 雲の峰に肘(ひぢ)する酒呑童子かな ころもがへ母なん藤原氏也けり       (「自筆句帳」) 金屏(きんびやう)のかくやくとして牡丹哉 灌仏やもとより腹はかりのやど        (「新花摘」) をちこちに滝の音聞く若ばかな 麦の秋さびしき貌の狂女かな 討はたす梵論(ぼろ)つれ立て夏野かな ぼうたんやしろがねの猫こがねの蝶 方百里雨雲よせぬぼたむ哉 柚の花や能(よき)酒蔵す塀の内 夏山や京尽くし飛(とぶ)鷺ひとつ すし桶を洗へば浅き游魚かな 五月雨や滄海を衝(つく)濁り水 おちこちに滝の音聞く若葉かな  褌に団(うちは)さしたる亭主かな     (「落日菴句集」) 塵塚の髑髏にあける青田かな   麦刈て遠山見せよ窓の前  掴みとりて心の闇のほたる哉        (新五千稿) 蝸牛(ででむし)のかくれ顔なる葉うら哉  (「夜半叟句集」) 我影を浅瀬に踏てすずみかな        (書簡) 我(わが)泪(なみだ)古くはあれど泉かな (「西の奥」)    ☆ 揚州の津も見えそめて雲の峰                         タイトルへ

 秋

秋来ぬと合点させたる嚔(くさめ)かな   (『蕪村句集』) 秋たつや何におどろく陰陽師 貧乏に追つかれけりけさの秋 秋立つや素湯(さゆ)香(かうば)しき施療院 初秋や余所(よそ)の灯見ゆる宵のほど とうろうを三たびかかげぬ露ながら 高燈籠滅(きえ)なんとするあまたたび 梶の葉を朗詠集のしほり哉 恋さまざま願の糸も白きより 魂棚をほどけばもとの座敷哉 大文字やあふみの空もただならぬ 相阿弥の宵寝起すや大文字 四五人に月落ちかかるおどり哉 いな妻の一網うつやいせのうみ いなづまや堅田泊リの宵の空 飛入の力者あやしき角力(すまひ)かな 夕露や伏見の角力ちりぢりに 負(まく)まじき角力を寝ものがたり哉 柳散(ちり)清水涸(かれ)石処々(ところどころ) 小狐の何にむせけむ小萩はら 山は暮て野は黄昏の薄哉 朝がほや一輪深き淵のいろ しら露やさつ男の胸毛ぬるるほど 白露や茨の刺(はり)にひとつづつ 身にしむや亡妻(なきつま)の櫛を閨(ねや)に踏 朝霧や村千軒の市の音      朝霧や杭打(うつ)音丁々(たうたう)たり もの焚て花火に遠きかかり舟 初汐に追れてのぼる小魚哉 むし啼や河内通ひの小でうちん 日は斜関屋の鎗にとんぼかな 中々にひとりあればぞ月を友 月天心貧しき町を通りけり 名月やうさぎのわたる諏訪の海 名月や夜は人住ぬ峰の茶屋 庵の月主(あるじ)をとへば芋掘に 名月や神泉苑の魚躍る 紀の路にも下りず夜を行鴈ひとつ 去年より又さびしいぞ秋の暮 門を出(いづ)れば我も行人秋のくれ 淋し身に杖わすれたり秋の暮   木曽路行(ゆき)ていざ年寄(よら)ん秋独リ かなしさや釣の糸吹あきの風 秋風や干魚(ひうを)かけたる浜庇 人の世に尻を居へたるふくべ哉 秋かぜのうごかして行案山子哉 三径の十歩に尽て蓼の花    甲斐がねや穂蓼の上を塩車 釣上し鱸(すずき)の巨口玉や吐(はく) 小鳥来る音うれしさよ板びさし 瀬田降りて志賀の夕日や江鮭(あめのうを) 秋の暮辻の地蔵に油さす 秋の燈やゆかしき奈良の道具市 追剥を弟子に剃りけり秋の旅 秋雨や水底の草を蹈わたる 己が身の闇より吼て夜半の秋 甲賀衆のしのびの賭や夜半の秋 遠近をちこちとうつきぬた哉 うき我に砧うて今は又止ミね 鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉 客僧の二階下り来る野分哉 泊る気でひとり来ませり十三夜 村百戸菊なき門(かど)も見えぬかな 菊作り汝は菊の奴(やつこ)かな よらで過(すぐ)る藤沢寺のもみぢ哉 村々の寝ごころ更(ふけ)む落し水 落穂拾ひ日あたる方へあゆみ行 猿どのの夜寒訪(とひ)ゆく兎かな 壁隣ものごとつかす夜さむ哉 欠々て月もなくなる夜寒哉 起て居てもう寝たといふ夜寒哉 山鳥の枝踏かゆる夜長哉 秋風(しうふう)や酒肆に詩うたふ漁者樵者 茸狩や頭を挙(あぐ)れば峰の月 冬ちかし時雨の雲もここよりぞ     (洛東芭蕉庵) 稲妻や波もてゆへる秋津しま       (『蕪村遺稿』)  戸をたたく狸と秋をおしみけり 温泉(ゆ)の底に我足見ゆる今朝の秋 野分して鼠のわたるにわたずみ 銀杏(いちゃう)踏(ふみ)てしづかに児(ちご)の下山かな 看病の耳に更ゆくおどりかな 細腰の法師すずろにおどりかな 門を出(いで)て故人に逢ぬ秋の暮 盗人の首領歌よむけふの月 巫女(かんなぎ)に狐恋する夜寒かな 名月や露にぬれぬは露斗(ばか)リ うつくしや野分の後のとうがらし さればこそ賢者は富ず敗荷(やれはちす) 待宵(まつよひ)や女主に女客 此ふた日きぬた聞えぬ隣かな 秋風にちるや卒都婆の鉋屑 後の月賢き人をとふ夜哉 一人来て一人を訪ふや秋のくれ 燈ともせと云ひつつ出るや秋の暮 硝子(びいどろ)の魚おどろきぬ今朝の秋 洟(はな)たれて独り碁をうつ夜寒かな 秋のくれ仏に化る狸かな          (「新花摘」) 麦秋や狐ののかぬ小百姓 岡の家の海より明て野分哉         (「落日菴句集」) 茨野や夜はうつくしき虫の声     人を取る淵はかしこか霧の中 底のない桶こけ歩行(ありく)野分哉  広道へ出て日の高き花野哉     子狐のかくれ貌なる野菊哉         (「新五子稿」) うら枯や家をめぐりて醍醐道        (夏より) 小(大)原女の足の早さよ夕もみぢ     (「岩本氏編全集」)                         タイトルへ

 冬

みのむしの得たりかしこし初時雨      (『蕪村句集』) 初しぐれ眉に烏帽子の雫(しづく)哉     楠の根を静にぬらす時雨哉 しぐるるや鼠のわたる琴の上 時雨(しぐる)るや我も古人の夜に似たる  初冬や日和になりし京はづれ 居眠リて我にかくれん冬ごもり 冬ごもり壁をこころの山に倚(よる) 勝手まで誰が妻子ぞ冬ごもり 冬ごもり仏にうときこころかな いばりせしふとんほしたり須磨の里 古郷(ふるさと)にひと夜は更(ふく)るふとんかな 大兵のかり寝あはれむ蒲団哉 茶の花や白にも黄にもおぼつかな 咲(さく)べくもおもはであるを石蕗花(つはのはな) 狐火や髑髏に雨のたまる夜に 風雲の夜すがら月の千鳥哉 磯ちどり足をぬらして遊びけり 里過て古江に鴛を見付たり 水鳥や舟に菜を洗ふ女有 早梅や御室の里の売屋敷 うづみ火や終には煮る鍋のもの 裾に置(おい)て心に遠き火桶かな 巨燵(こたつ)出て早あしもとの野河哉 腰ぬけの妻うつくしき巨燵かな 飛騨山の質屋とざしぬ夜半の冬 むささびの小鳥はみ居る枯野哉 大とこの糞ひりおはすかれの哉 水鳥や枯木の中に駕二挺 草枯て狐の飛脚通りけり 狐火の燃へつくばかり枯尾花 我も死して碑に辺(ほとり)せむ枯尾花 蕭条(せうでう)として石に日の入(いる)枯野かな 待人の足音遠き落葉哉 西吹ケば東にたまる落葉かな 鰒汁の宿赤々と燈しけり ふく汁の我活キて居る寝覚哉 凩に鰓(あぎと)吹るるや鈎の魚 こがらしやひたとつまづく戻り馬 こがらしや畠の小石目に見ゆる こがらしや何に世わたる家五軒 凩やこの頃までは荻(をぎ)の風 木枯や鐘に小石を吹あてる こがらしや岩に裂(さけ)行水の声 麦蒔や百まで生る(かほ)ばかり 雪の暮鴫(しぎ)はもどつて居るような うづみ火や我(わが)かくれ家も雪の中 鍋さげて淀の小橋を雪の人 宿かさぬ火影や雪の家つづき 霜百里舟中に我月を領す みどり子の頭巾眉深(まぶか)きいとをしみ めし粒で紙子の破れふたぎけり 書記典主(でんす)故園に遊ぶ冬至哉 水仙や寒き都のここかしこ 水仙や美人かうべをいたむらし 冬されや小鳥のあさる韮畠 葱(ねぶか)買(かう)て枯木の中を帰りけり 易水にねぶか流るる寒さかな 皿を踏(ふむ)鼠の音のさむさ哉 静なるかしの木はらや冬の月 冬こだち月に隣をわすれたり 二村に質屋一軒冬こだち このむらの人は猿也冬木だち 鴛(をしどり)に美を尽してや冬木立 斧入て香におどろくや冬こだち 御火焚(おほたき)や霜うつくしき京の町 宿かせと刀投出す吹雪哉 愚に耐(たへ)よと窓を暗(くらう)す雪の竹 氷る燈の油うかがふ鼠かな 歯あらはに筆の氷を噛ム夜哉 我を厭ふ隣家寒夜に鍋を鳴ラす 一しきり矢種の尽るあられ哉 古池に草履沈ミてみぞれ哉 寒月や門なき寺の天高し 寒月や枯木の中の竹三竿(さんかん) 寒月や衆徒の群議の過て後 細道になり行声や寒念仏 極楽にちか道いくつ寒念仏     薬喰隣の亭主箸持参 妻や子の寝も見えつ薬喰 客僧の狸寝入やくすり喰 うぐひすの啼や師走の羅生門 御経に似てゆかしさよ古暦 ゆく年の瀬田を廻るや金飛脚 とし守(もる)や乾鮭の太刀鱈の棒 芭蕉去(さり)てそののちいまだ年くれず 冬ごもり心の奥のよしの山         (『蕪村遺稿』) 水仙に狐あそぶや宵月夜 冬川やほとけの花の流れ去る 打ちかけの妻もこもれり薬喰      水鳥やてふちんひとつ城を出る 鍋敷に山家集あり冬ごもり 桃源の路次(ろし)の細さよ冬ごもり 手取にやせんとのり出すくじら舟 売喰の調度のこりて冬ごもり 生海鼠(なまこ)にも鍼(はり)こころむる書生哉 こがらしや覗いて逃(にぐ)る淵の色 寒月や門をたたけば沓(くつ)の音  落葉して遠く成けり臼の音 鷺ぬれて鶴に日の照る時雨哉 冬ごもり妻にも子にもかくれん坊 みのむしのぶらと世にふる時雨哉 化さうな傘かす寺の時雨かな いざや寐ん元日は又翌の事 里ふりて江の鳥白し冬木立 雪の旦(あさ)母屋(もや)のけぶりのめでたさよ こがらしや野河の石を踏わたる ふく汁やおのれ等が夜は朧なる 逢(あは)ぬ恋おもひ切ル夜やふくと汁 住吉の雪にぬかづく遊女かな 冬されや韮にかくるる鳥ひとつ 我骨のふとんにさはる霜夜かな 初冬や訪はんと思ふ人来ます        (「落日菴句集」) (初冬や訪んとおもふ人来(きた)り 「新五子稿」) 変化住む屋敷もらひて冬籠 寒菊や日の照る村の片ほとり 襟巻の浅黄にのこる寒さかな        (「夜半叟句集」) 落葉してしのび車の響かな 山越る人にわかれてかれ野かな 焼火(たきび)して鬼こもるらし夜の雪 松島で死ぬ人もあり冬籠  白ぎくの一もと寒し清見寺   不二を見て通る人有(あり)年の市     (「元文四年歳旦帳」) ひとつ枝に飛花落葉や冬ざくら       (「天明三年遺稿」)    ☆ 思ふこといはぬさまなる生海鼠(なまこ)かな 炭団法師火桶の穴より窺ひけり                      タイトルへ

  北寿老仙をいたむ

君あしたに去(い)ぬゆふべのこころ千々に
何ぞはるかなる
君をおもふて岡のべに行(ゆき)つ遊ぶ
をかのべ何ぞかくかなしき
蒲公(たんぽぽ)の黄に薺のしろう咲きたる
見る人ぞなき
雉子(きぎす)のあるかひたなきに鳴(なく)を聞(きけ)ば
友ありき河をへだてて住(すみ)にき
へげのけぶりのはと打(うち)ちれば西吹(ふく)風の
はげしくて小竹原(をざさはら)真すげはら
のがるべきかたぞなき
友ありき河をへだてて住にきけふは
ほろろともなかぬ
君あしたに去ぬゆふべのこころ千々に
何ぞはるかなる
我庵のあみだ仏ともし火もものせず
はなもまいらせずすごすごと彳(たたず)める今宵は
ことにたうとき
                      釈蕪村百拝書

(注)この俳詩は蕪村と親交のあった下総国結城本郷(茨城県結市)の俳人早見晋我(しんが)が亡く なった時、蕪村によってよまれた挽詩(挽歌)である。 「へげ」:変化(へんげ)。解釈には諸説あり。「へげのけぶり 」は山本健吉にならって「屍を焼く煙」 としたい気もする。その際健吉は「へげ」を「へぎ」(杉・檜などの板)としているが、「変化」でも その雰囲気は含んでいると思える。
                        
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  春風馬堤曲 (しゆんぷうばていきよく)

             謝蕪邨
  余一日問耆老於故園。渡澱水
  過 馬堤。偶逢女帰省郷者。先
  後行数里。相顧語。容姿嬋娟。
  癡情可憐。因製歌曲十八首。
  代女述意。題曰春風馬堤曲。

 (余一日(いちじつ)耆老(きらう)ヲ故園ニ問フ。澱水(でんすい)ヲ渡リ
  馬堤ヲ過グ。偶(たまたま)女(じよ)ノ郷ニ帰省スル者ニ逢フ。先
  後シテ行クコト数里、相顧ミテ語ル。容姿嬋娟(せんけん)トシテ
  癡情(ちじやう)憐(あはれ)ムベシ。因リテ歌曲十八首ヲ製シ、
  女(じよ)ニ代ハリテ意ヲ述ブ。題シテ春風馬堤曲ト曰フ。)

   (注)「耆老」老人、「澱水」淀川、「馬堤」毛馬堤、「嬋娟」たおやか、
      「癡情」色にほだされる情、「可憐」愛らしい。

   春風馬堤曲十八首
○やぶ入や浪花(なには)を出(いで)て長柄川(ながらがは)
   (注)「長柄川」中津川(新淀川の前身)。
○春風や堤長うして家遠し
○堤下摘芳草 荊与棘塞路
 荊棘何無情 裂裙且傷股

(堤ヨリ下リテ芳草ヲ摘メバ 荊(けい)ト棘(きよく)ト路(みち)ヲ塞グ
 荊棘何ゾ無情ナル 裙(くん)ヲ裂キ且ツ股(こ)ヲ傷ツク)

   (注)「裙」着物の裾。

○渓流石点々 踏石撮香芹
 多謝水上石 教儂不沾裙

(渓流石(いし)点々 石ヲ踏ンデ香芹(かうきん)ヲ撮(と)ル
 多謝ス水上ノ石 儂(われ)ヲシテ裙(くん)ヲ沾(ぬ)ラサザラシム)

   (注)「多謝」ありがとう。

○一軒の茶見世の柳老(おい)にけり
○茶店の老婆子(らうばす)儂(われ)を見て慇懃に
 無恙(ぶやう)を賀し且(かつ)儂(わ)が春衣を美(ほ)ム
   (注)「老婆子」おばあさん、「無恙」つつがないこと。
○店中有二客 能解江南語
 酒銭擲三緡 迎我譲榻去

(店中二客有リ 能(よ)ク解ス江南(かうなん)ノ語
 酒銭三緡(さんびん)ヲ擲(なげう)チ 我ヲ迎ヘ榻(たふ)ヲ譲ツテ去ル)

   (注)「江南語」大阪の郭言葉、「緡」銭さし、銭百文をつなぎ一緡(ひとさし)という。
      「榻」床几。

○古駅三両家猫児(べうじ)妻を呼(よぶ)妻来(きた)らず
   (注)「古駅」古い宿場。
○呼雛籬外鶏 籬外草満地
 雛飛欲越籬 籬高堕三四

(雛ヲ呼ブ籬外(りぐわい)ノ鶏 籬外草(くさ)地ニ満ツ
 雛飛ビテ籬(かき)ヲ越エント欲ス 籬高ウシテ堕(お)ツルコト三四 )

○春艸(しゆんさう)路(みち)三叉(さんさ)中に捷径(せふけい)あり我を迎ふ
○たんぽぽ花咲(さけ)り三々五々五々は黄に
 三々は白し記得(きとく)す去年此(この)路(みち)よりす
○憐(あはれ)ミとる蒲公(たんぽぽ)茎短(みじかう)して乳(ちち)を(あませり)
○むかしむかししきりにおもふ慈母の恩
 慈母の懐袍(くわいほう)別に春あり
○春あり成長して浪花にあり
 梅は白し浪花橋辺(けうへん)財主の家
 春情まなび得たり浪花風流(ぶり)
○郷を辞し弟(てい)負(そむ)く身三春(さんしゆん)
 本(もと)をわすれ末を取(とる)接木(つぎき)の梅
○故郷春深し行々(ゆきゆき)て又 行々(ゆきゆく)
 揚柳(やうりう)長堤道漸(やうや)くくだれり
○矯首(けうしゆ)はじめて見る故園の家黄昏(くわうこん)
 戸に倚(よ)る白髪の人弟を抱(いだ)き我を
 待(まつ)春又春
   (注)「矯首」首(こうべ)ヲ 矯(あ)ゲ。
○君不見(みずや)古人太が句
   薮入の寝るやひとりの親の側

(注)漢文には書下し文を採用。蕪村が幼時故郷の毛馬の堤で見た薮入りの娘を主人公にして、彼女が 大阪(難波)から毛馬に帰る途中の情景をつなげ俳詩にしている。と同時に蕪村のやるかたない旧懐の 実情をも表している。
                        
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  澱河歌 (でんがか)

  澱河歌三首
○春水浮梅花 南流菟合澱
 錦纜君勿解 急瀬舟如電

(春水(しゆんすい)梅花ヲ浮カベ 南流シテ菟(と)ハ澱(でん)ニ合ス
 錦纜(きんらん)君解クコト勿レ 急瀬(きふらい)舟電(でん)ノ如シ)

○菟水合澱水 交流如一身
 船中願同寝 長為浪花人

(菟水澱水ニ合シ 交流一身(いつしん)ノ如シ
 船中願ハクハ寝(しん)ヲ同(とも)ニシ 長ク浪花(なには)ノ人ト為(な)ラン)

○君は水上の梅のごとし花(はな)水に
 浮(うかび)て去(さる)こと急(すみや)カ也
 妾(せふ)は江頭(かうとう)の柳のごとし影(かげ)水に
 沈(しづみ)てしたがふことあたはず

(注)漢文には書下し文を採用。「菟」は宇治川、「澱」は淀川、「錦纜」は錦のともづな。ここには 性的な隠喩とともに、思う難波男と一緒になれない伏見の遊女の悲しみが表現されている。
                       
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  蕪村百句 (目下百八句)

うぐひすの啼(なく)やちいさき口明(あい)て
二もとの梅に遅速(ちそく)を愛す哉
白梅や墨芳(かんば)しき鴻臚館
梅咲て帯買ふ室(むろ)の遊女かな
梅遠近南すべく北すべく
高麗舟のよらで過ゆく霞かな
橋なくて日暮れんとする春の水
春雨や小磯の小貝ぬるるほど
はるさめや暮なんとしてけふも有
春雨やものがたりゆく簑と傘
畑うつやうごかぬ雲もなくなりぬ
妹が垣根さみせん草の花咲ぬ
遅き日のつもりて遠きむかしかな
春の海終日(ひねもす)のたりのたり哉
うつつなきつまみごころの胡蝶哉
巾(いかのぼり)きのふの空のありどころ
春の夕(くれ)たえなむとする香(かう)をつぐ
菜の花や月は東に日は西に
ゆく春やおもたき琵琶の抱心
大門(おおもん)のおもき扉や春のくれ
釣鐘にとまりて眠る胡てふ哉
椿落て昨日の雨をこぼしけり(最近の版本では省かれている。味がある句で、ここでは残した。)
しら梅に明る夜ばかりとなりにけり
御手討の夫婦(めをと)なりしを更衣
岩倉の狂女恋せよ子規
牡丹散(ちり)て打かさなりぬ二三片
閻王の口や牡丹を吐かんとす
地車のとどろとひびく牡丹かな
ちりて後おもかげにたつぼたん哉
牡丹切(きつ)て気のおとろひし夕かな
山蟻のあからさま也白牡丹
鮎くれてよらで過行夜半の門
みじか夜や毛むしの上に露の玉
短夜や浪うち際の捨篝
来て見れば夕の桜実となりぬ
不二ひとつうづみ残してわかばかな
絶頂の城たのもしき若葉かな
若竹や橋本の遊女ありやなしや
夏河を越すうれしさよ手に草履
花いばら故郷の路に似たる哉
路たえて香にせまり咲いばらかな
愁ひつつ岡にのぼれば花いばら
夕風や水青鷺の脛(はぎ)をうつ
さみだれや大河を前に家二軒
酒十駄ゆりもて行や夏こだち
離別(さら)れたる身を蹈込(ふんごん)で田植哉
二人してむすべば濁る清水哉
草いきれ人死居ると札の立
雷に小屋は焼れて瓜の花
涼しさや鐘をはなるるかねの声
飛蟻とぶや富士の裾野の小家より
ところてん逆(さか)しまに銀河三千尺
薫風やともしたてかねついつくしま
目にうれし恋君の扇真白なる
ころもがへ母なん藤原氏也けり
方百里雨雲よせぬぼたむ哉
五月雨や滄海を衝(つく)濁り水
秋たつや何におどろく陰陽師
秋立つや素湯香(かうば)しき施療院
高燈籠滅(きえ)なんとするあまたたび
梶の葉を朗詠集のしほり哉
恋さまざま願の糸も白きより
大文字やあふみの空もただならぬ
四五人に月落ちかかるおどり哉
夕露や伏見の角力ちりぢりに
負くまじき角力を寝ものがたり哉
柳散(ちり)清水涸(かれ)石処々(ところどころ)
山は暮て野は黄昏の薄哉
朝がほや一輪深き淵のいろ
しら露やさつ男の胸毛ぬるるほど
白露や茨の刺(はり)にひとつづつ
身にしむや亡妻(なきつま)の櫛を閨(ねや)に踏
月天心貧しき町を通りけり
門を出(いづ)れば我も行人秋のくれ
甲斐がねや穂蓼の上を塩車
釣上し鱸(すずき)の巨口玉や吐
小鳥来る音うれしさよ板びさし
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉
落穂拾ひ日あたる方へあゆみ行
稲づまや浪もてゆへる秋つしま
硝子(びいどろ)の魚おどろきぬ今朝の秋
楠の根を静にぬらす時雨哉
磯ちどり足をぬらして遊びけり
うづみ火や終には煮る鍋のもの
巨燵出て早あしもとの野河哉
腰ぬけの妻うつくしき巨燵かな
蕭条として石に日の入枯野かな
待人の足音遠き落葉哉
西吹ケば東にたまる落葉かな
鰒汁の宿赤々と燈しけり
うづみ火や我かくれ家も雪の中
宿かさぬ火影や雪の家つづき
霜百里舟中に我月を領す
水仙や寒き都のここかしこ
葱(ねぶか)買て枯木の中を帰りけり
易水にねぶか流るる寒さかな
斧入て香におどろくや冬こだち
宿かせと刀投出す吹雪哉
芭蕉去(さり)てそののちいまだ年くれず
冬ごもり心の奥のよしの山
水仙に狐あそぶや宵月夜
桃源の路次(ろし)の細さよ冬ごもり
こがらしや覗いて逃(にぐ)る淵の色
落葉して遠く成けり臼の音
いざや寐ん元日は又翌の事
ふく汁やおのれ等が夜は朧なる
逢(あは)ぬ恋おもひ切ル夜やふくと汁
初冬や訪んとおもふ人来(きた)り
                       
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『蕪村俳句集』(岩波文庫 尾形仂)を中心に『蕪村俳句集』(岩波文庫 頴原退蔵)、『日本古典文 学全集 近世俳句俳文集』(小学館 栗山理一)、『新潮日本古典集成 與謝蕪村集』(新潮社 清水孝 之)、『古典俳文学大系 蕪村集(全)』(集英社)、『蕪村全集』(講談社)や他の多くの 蕪村俳句 集・蕪村論などから選句。

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